純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

はじめましてタピオカ

先日わらびもちの話を書き終えて思い出した食べ物がある。
タピオカだ。

 

わらびもちの最大の魅力はというと、
もちもち、と弾力のある歯ごたえ。
昨年のトレンドに堂々と輝いたタピオカには、これと通ずるものがある。
わらびもちが好きな人は、絶対に好きだと思うのだ。

 

思えば初めてタピオカミルクティーを飲んだのは、昨年6月。
学生時代の後輩と、東京の新大久保で3年ぶりに会ったときのことだった。

 

「タピオカ飲みに行きませんか」

 

彼によると、台湾旅行で寄った店がこの辺りに出店しているので、覗いてみたいとのこと。

私は二つ返事でついていった。
何しろ、タピオカミルクティーとやらを飲むのは初めてだった。

 

店には行列が出来ていた。よほどの人気店らしい。
後輩はクリームの乗った黒糖タピオカミルクティーをおごってくれた。

衝撃的なおいしさだった。
まろやかな甘みに、もちもちとした食感。
まさにミルクティーとタピオカの素晴らしいコラボレーション。
黒糖の濃厚な味わいもまた、絶妙なアクセントになっている。
こんなおいしい飲み物、いったい誰が考えついて・・・

「おいしい」
「おいしい」
「すごくおいしい」

某即席めんのCMのごとく繰り返す私。
店頭で飲んでいたので、ちょっとした販促行為だったように思う。

おいしい以外の言語を失っていた私は、大興奮で言った。


「わらびもち好きな人は、絶対タピオカも好きだよ!」


へぇ、と笑う後輩。


「だって私、わらびもち好きだもん!」

毒にも薬にもならぬアラサーの叫びが、虚しく店頭に響いた。

 

気がつくと、後輩はすっかりタピオカを飲み終えていた。

はやいなぁ。いや、私が遅いのか?
吸い上げて、タピオカもちもち噛んで、って繰り返してると、こんなもんだと思うんだけど…
どうしよう待たせてる…

もしかして、私のいただき方が間違ってるんじゃないか?

もしかして・・・!!


「ねえイッチー(後輩の名)」

私は半分確信をもって後輩に尋ねた。

「タピオカって噛むのと飲み込むのどっちが正解?」

 

ほら・・・言っておくれよ・・・!!

飲み込むのが正式ないただき方ですって・・・!!

 

「噛むほうじゃないですかね」

後輩は即座に答えた。
彼はさらに「飲み込むって…」と肩を震わせて笑っていた。

 

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「ねえねえイッチーあのさ」

興奮しきった私はこりずに尋ねた。


「タピオカって、なにでできてるんだっけ?
カエルの卵だとかいろんな都市伝説に惑わされて、私の中でうやむやになっちゃってて…」

あなたは何を飲んでいるかもわからずにおいしいとかほざいてたんですか、という顔は一切せずに
「イモですね」とイッチーは答えた。
「キャッサバ、とか言ったかな」

 

「あああ~こんにゃくイモみたいな感じか!」
「僕も詳しくないですけど」

初めて火に出会った新人類を相手に、彼は丁寧にウィキペディアまで引っ張り出して説明した。
大天使イッチー。
そして知を得てますます興奮する新人類。

歓喜する新人類を、イッチーは穏やかな笑みで見守っていた。

 

 

それから数日後。

なにげなくテレビを見ていたときのことだ。

 

「今!巷で大ブームのタピオカミルクティーについて!!」

 

 ・・・・・・・!!!!?

 

 え・・・!!!!!!!?

 

 

あろうことか、私はその瞬間初めて、タピオカがブームになっていたことを知ったのだ。

 

え・・・流行ってたの・・・!?

 

今年のトレンド・・・だと・・・!?

 

流行っていることも知らずに平然と飲みに行った私。
あの、すさまじい行列。
何のことはない。タピオカは今、空前の大ブームだったのだ。
単に人気店であるだけではなかったのだ。

奇妙なことに、飲んだ直後から、見る先々でタピオカが「ブーム」特集され始めた。
恐らくこれまでもさんざん特集されていたにも関わらず、私の人生には一枚もかんでこなかったタピオカが、飲んだ直後からである。
なんとも不思議な現象だった。

 

なにこれ…?引き寄せの法則…?(たぶん意味ちがう)

あの子・・・流行ってるから連れてってくれたんじゃないの・・・?

 

思えば、あの日の昼に食べたチーズタッカルビも知らなかった。

 

会う数日前、提案されて初めてチーズタッカルビについて調べた。
そのとき初めて、3,4年ほど前に女性の間で大ブームだったことを知ったのだ。

脱力した。3,4年前も一応女だったはずなのだが、そんな事実など知らない。
いったいどの星の女の間でブームだったのか教えてほしいほどである。

 

あの子、自分が好きだからって言ってたけど
女ウケがいい食べ物だから提案してくれたのもあったんじゃ…
ごめん私、完全にあのときも新人類だったよ…
知らなくてゴメン…

 

「イッチー・・・すげぇなあ・・・ありがとう」

 

基本ひきこもりの私に、外界の世界を教えてくれた後輩。
ぎりぎりのタイミングで救ってくれたようにしか思えなかった。

後輩に感謝しながら、テレビの中でもてはやされるタピオカを、じっと見つめていた。