純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

暴れん坊将軍KISS

前回白髪についてのお話をしたわけだが、
毛つながりでもう一本。

 

私のくせ毛が、言うことを聞かなくなってきてる。

 

くせ毛、この道ひとすじ30年。
私のくせ毛が今や、髪の毛であることを忘れようとしている。
くせ毛っつーか、くせ者っぽくなってきてる。
凶暴さを増してる。荒ぶってる。
髪だけならKISSにメンバー入りできるんじゃないかって勢い。

だいぶ遅めの反抗期。
15の夜は家でおとなしく寝てたあの子が、
30の夜、今さら盗んだバイクで走り出そうとしている。
一人で生きていく覚悟を決めざるを得ない、私の心に、同調したかのように。

どうやらくせ毛が、
強く、たくましく、生まれ変わろうとしている。

 

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10年前。

君に届け」というさわやか青春少女漫画が、もうこれでもかってくらい世間をにぎわせていた頃。
行く先々で、「君に届けの爽子に似てる」と言われた。

流行に乗らないとか、乗れないとか。
じゃなくてそもそも、流行が終わってから知るという派閥に属していた私は、
君に届けを、知らなかった。
促されるままググってびっくり、
髪型しか似てねーじゃんっていう。
爽子、美人。
おまけに風早くんとかいう超絶さわやか少年に想いを寄せられ、ギャルの友達からもめちゃめちゃ大事にされてる。
どっから切っても、勝ち組。
日向ちゃんって幸薄い顔してるよねってサクライが言ってたわーとか私が言われてる一方で、
爽子どうやら、幸薄い系で設定されてるけど、幸、濃いめ。特濃。
爽子に、格の違いを見せつけられて、散った。

「風早のいない爽子」と呼ばれて4年。
そして確かにとうとう、風早くんは現れなかった。

 

 

5年前。

当時勤めていた保育施設で、お弁当を食べながら、職員みんなで昼の情報番組を見ていた。
ちょうどその頃、ピースの又吉直樹が処女作「火花」を発表したばかりだった。
今、火花がアツい!みたいな、又吉特集が始まった。

 

「もえこ先生、又吉とお似合いだと思う」

 

一人の先輩がぽつりと口にした。

するとたちまち、
「わかるー!!」の嵐。

 

ほんとですか~なんてヘラヘラ笑って聞いてた。
でもどうやら先輩方は真剣だった。
熱の帯び方が、おふざけじゃなかった。
私が未婚で恋人もいないことを、
本人以上に憂いてくれていた先輩方は、ひと押しで又吉を勧めてきた。

きっともえこ先生と話も合うと思う。
うん、あんた、又吉にしなさい。
又吉、おしゃれだし、いいじゃん。

いや、イニシアティブは私じゃなくてどっちかっつーと又吉にあるっつーか、
でもまずそこは置いとくとして、
どうしてそんなに熱っぽく「似合う」と言ってくれたのか。

 

なんのことはない、私が又吉に似ていたのである。

 

似ていたっていうか、似てきていた。
髪が、気がついたら、心電図みたいな細かいウェーブを描き始めていた。
顔は論外だ。又吉は実は男前で、かたや私は人より食べ物にたとえたほうが早い。
似てますなんつったらたぶん、何らかの罰を受ける。
問題は、髪。髪型が又吉。
又吉のそれでしかない。
ねらったかのように、又吉。
図らずも、おそろい。髪型がペアルック。
兄には、ダイアモンド☆ユカイになぞらえられたこともあった。

 

あーそっか私、おろしてると最近、
又吉かヘタしたらキリストって感じだもんなーって、納得しつつ、
主任の先生が貸してくれた「火花」は、めちゃくちゃおもしろくて一気読みした。

 

そして今。

爽子をかすり、
又吉とダイアモンド☆ユカイを経由して、
KISSに憧れる思春期の又吉みたくなってきた。

 

あと5年後にはどこへ向かっているのだろう。

 

ネクラで独り身で頭だけKISSって、
出口のない迷路に迷い込んだ感がいなめない。
のたくった髪たちが、私の頭部でそろって迷宮入りだ。

 

私の髪ってばもう、
ひとつ曲がり角、ひとつ間違えて。
迷い道、くねくね。