純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

愛の都カリオストロ

失恋して逃げ込んだのは、カリオストロの城だった。

 

29のとき、失恋した。

 

した、っていうか、させられた。
正確に言うなら、失恋ですらなかった。
あの顛末は、今思い出しても、わけがわからない。

 

窮地に追い込まれたときの行動で、
その人がどんな人間かわかる、って言うけれど。

 

カリオストロの城を、観てた。
鬼のように観てた。
愛に傷つきすぎると、人は、カリオストロの城に走るらしい。

 

時間が許せば、きまってカリオストロの城を観た。

休みの日、昼間から夕方にかけて。
仕事の日、深夜、酒とつまみを携えて。

ルパンおじさまの優しい声に、するすると寝入って、
ゆめうつつにルパンたちの声に包まれて眠って、
電気もテレビもつきっぱなしのまま迎えた朝方。
ああ、やっちゃったなあ。
あーもう、電気代。なんて、
酒のにおいがたちこめる中、ぼんやりした頭で思いながら。

 

カリオストロの城は、優しい。

 

事が起きたとき、気がついたら、
そうだ、カリオストロの城を観よう、と思ってた。
そうだ、京都、行こう。みたいなテンポで。

人間の心ってほんと理屈じゃないもので、
なんで突拍子もなくそんなことを思ったのか、頭じゃさっぱりわからない。
だけど心は、自分に必要なものをよく知ってたみたいだ。

 

ルパン一味が、とにかく優しい。

 

ルパンはもちろんのこと、
次元も、五右エ門も、不二子も、とっつぁんも、みんな優しい。
クラリスをあたたかく包み込む。
クラリス自身も、宮崎ヒロインにはお約束のごとく、心が本当に清らかで優しい。
銭形警部や庭師のおじさん、カールなんかも、優しい空気感をさらにあたためてくれる。

 

f:id:hinatamoeko:20201120232151p:plain

そしてなんといっても、オープニング。
炎のたからもの。

札束が空へ吸い込まれていく
ドラマティックな画と共に流れ始めるイントロの、寂しげなことといったら。
それでいて、あたたかい。

あの泣かせるメロディー。
あの歌詞。あの歌声。
私をこれ以上どうしようっていうの?

テーマとして作中さまざまなアレンジで流れるのだが、
このメロディーが名作をいっそう名作たらしめていると言ってもいい。
作品の優しさ・せつなさを増幅させ、観る者の心を揺さぶるのだ。

 

この、優しい世界。

 

三回ほど観終えたとこで、気づいた。

 

あー私、こんなにショックだったんだ、って。

 

あまりに理不尽な展開に、
あまりに利己的な行動に、
人間が信じられなくなりそうな私の心は、
いや信じたい!!
って、学芸会のひな壇よろしく、息を合わせてさけんで、
そーゆーことならって私は、結果、
カリオストロの城の、優しさあふれる世界に逃げこんだ、と。

絶対に傷つかない世界に。

 

なぜカリオストロの城だったのか。
いまだにはっきりとした答えは出ない。

自分をクラリスに見立て、
大切にされ、守られる幻想に浸ったのだろうか。
そうも考えて、自分の身のほど知らずぶりにあきれた。
でも違った。

 

ルパン一味も、クラリスも、
あなたを救い出し、幸せにしたいから、力を尽くす。
そのために、自分がどんな犠牲を払おうとも。

 

すなわちそれは、無償の愛。

 

相手を慈しみ、想い合うまっすぐな心たち。

 

そんな理想郷を垣間見せてくれる、カリオストロの城
その心に出会いたくて、
私は何度も、カリオストロの城の世界へ逃げ込んだのだ。

 

そこまで考えて、思わずうなった。
この、カリオストロの城に対する、絶大な信頼。

一人の女が理不尽な失恋をして、
傷ついた末に脳裏に浮かぶ一本が、カリオストロの城ですよ。

カリオストロの城だけはあたしを傷つけない!って、信じ切ったわけです。
B’zの稲葉さんが愛のままにわがままに傷つけないのは君だけですけど、
カリオストロの守備範囲はね、複数形ですから。
全視聴者を傷つけない。
負けじと、一途な想いを振りかざしてます。

 

ここで、人選を誤ったら、もう立ち直れないっていう状況。
そんな中、あいつだったら絶対大丈夫、っていう。

 

 

初めて観たのは、21のとき。
若い女の子」だったあの頃。

そうは言えなくなった今も、
これから先も、きっと。

つまり何が言いたいかっていうと、
カリオストロの城は、やっぱり、まぎれもなく名作って話です。