純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

トオタル・コオデネイトなのら

通勤用かばんは長いこと、800円のキャンバストートバッグを使ってきた。
うちの店のセールで買って以来、
雨の日も風の日も私の左肩で持ち物を守り続けた、黄色のキャンバストート。
これもまた、ギンガム姐さんヴィッツの例にもれず、
長年の勤労がたたってすっかり汚れてしまったので、今回買い替えることにした。


雑貨店は、暮らしに豊かさをもたらす「素敵なもの」を売るところだ。
そこのスタッフが素敵じゃないすすけたトートバッグでうろうろしていては、店のイメージダウンに繋がりかねない。


さて、今回はどんなかばんを探そうか。
私は悩んだ。
キャンバストートは大変使い勝手がよく、気に入って使っていたからだ。
それがまたすぐ同じように汚れてしまうのでは困る。


合成皮革か。ナイロン製か。
ボストンタイプか。ショルダータイプか。
はたまた再び、トートタイプか。
通勤用とあれば、仮にダメになっても落ち込まない、低価格のものがよい。


うんうんうなって、みすぼらしいトートバッグで通勤し続ける日々。
なかなかちょうどよい着地点が見つからないのだ。
アイボリーのキャンバス地にグレーがかった汚れはたいへん目立ち、
はずかしさゆえに上着の袖で隠しながら歩く日々。


「日向さん」
店長が休憩から戻りしな、言った。
「あっちで、リュック1000円で売ってましたよ」

私は目を輝かせた。
店長は、「いいかげんはずかしくて…」とモジモジ言う私の言葉を、覚えていてくれたのだ。

「どぅっ、どっ、どこでですか!!」
「あっちの、服飾売場で。ボーダーのリュックです。あと2個残ってました」

ボーダーか。きらいじゃない。
私は休憩に入って即座に服飾売場へ赴き、風の速さでそれをゲットしたのである。

 

汚れたトートをリュックの中に押し込みながら、私は満ち足りた気分だった。
黄色のトートをはずかしく感じていたのには、他の理由もあったのだ。

近年の私の傾向として、持ち物に黄色いものを選ぶ傾向にある。
理由は、これまであまり持とうとしなかった色で新鮮に感じること、
差し色に入ると、パッと華やいで明るくなる色であること。
ポーチ、ハンカチ、靴下。
そして、携帯電話にもその傾向は及んだ。

携帯電話のカラーにレモンイエローを選んだ直後に
例の黄色いトートバッグを購入したのだが、
内ポケットが浅すぎて携帯がおさまらず、
トートバッグの外ポケットに携帯を差して、絶句した。

 

すごい、黄色が好きな人みたい。

 

いや実際、好きなことに誤りはないのだが、
主張が激しすぎる。ものすごく、黄色好きを主張した画になってる。

若干自意識過剰とはいえ、これが少々はずかしく、
トートの外ポケットを自分の体側に押しつけていつも歩いていた。

そのわずらわしさから、解放される。

私はほーっとため息をついて、
弁当を食べ、お手洗いで歯みがきをすませ、
うんしょと荷物を持った姿を鏡で見て、
ふと、気づいた。

 

 

すごい、ボーダーが好きな人みたい。

 

 

いや実際、好きなことに誤りはないのだが、
主張があまりにも激しすぎた。

まず、職場の制服が、ボーダー。

次に、リュックが、ボーダー。


きわめつけには、ランチトートも、ボーダーだったのである。

 

これは完全に偶然だった。
制服に関しては抗いようがないとして、
リュックは店長のおすすめをそのまま購入し、
ランチトートは、家にあった「どうなっても構わないもの」を持っていたにすぎない。

 

どうしよう…はずかしい。黄色まみれのときよりはずかしい。

 

図らずもボーダーが集結してしまった私は、
道をそそくさと歩き、帰宅した。

いいや、言うほど変でもないし。
そう開き直って、いっそネタにしてしまおうと母に言った。
「今日さ、店長が見かねてリュックを紹介してくれて、
それに買い替えたら、全身ボーダーになっちゃって…」

 

台所から姿を現した母は、はっと目を見開き、
当惑した表情で、言った。

「なんかあの人に似てるね、あの…」

 

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グワシーーーーーーー!!!?

 

私はうろたえた。
いや、ちょっと、格が違いすぎるから!!
楳図さん生半可なボーダー好きじゃないから!!
楳図さんに比べたら、私のレベルなんてにわかボーダーファンにすぎないから!!


白髪について語った際、
白と黒を混在させてなんとかなるのは
GLAYのHISASHIと関口宏で、
そこに名を連ねるなんて畏れ多いなんて話をしたが、
「ボーダー好き」で
楳図かずお」「日向もえこ」が並ぶのはもっとおかしいから!!
ハードルぐっと上がったから!!

 

でもさ、わかるよ。もうさ、どこのしまじろうだよって話。
こんなに意図せずして、
体中にボーダーを集めて巻き起こせ嵐、嵐、みたいな人、いる?

 

 

どんなことを言ってみても、
今日も明日も、これからも、
私は全身しましまで出掛ける運命にあるのである。

せめてもの救いは、このリュック。
軽くてクッションがふかふかで、
800円トートよりはるかに楽ちんな、優れものだということである。
店長、ほんと、ありがとう。