イツモシズカニハシッテイル
1月も下旬に近づく今日、
年末年始・3大癒されエピソードとして、
最後はこんなエピソードで締めくくりたい。
三が日、早番の朝。
降りしきる雪の中、私は職員駐車場へと車を走らせていた。
お正月にこの雪では、きっとお客様も少ないだろうな。
無人の歩道をちらりと見やって思う。
私の雪景色ジュークボックスがWinter,againを奏でている状況である。
12月は私たちのそんな予想に反し、
豪雪をものともせず、お客様が大勢来店した。
さすがこの地域の民には大雪なんて
何てことのない日常か、と感嘆したものだが
正月とくれば話は別であろう。
家族で、自宅でのんびり過ごす方も多いはず。
ましてこれほどの大雪の正月とあれば……
職員駐車場へと続く交差点。
私は右にハンドルを切り、
いつもの公営体育館前に差し掛かる。
ふと、右前方に人影をとらえた。
どうやらこちらへ向かって走ってくる。
さ・・・
さかなクン・・・!?
頭頂部が青で、
下半分が白の帽子。
一瞬私には、さかなクンのハコフグ帽に映った。
いや、そんなはずがあるまい。
いくら東北を訪ねてくれることがあると言ったって、
正月の三が日にさかなクンが
こんな片田舎を一人で走っているわけがない。
さらに近づいてみる。
職員駐車場まであと数メートルという地点で明らかになった、その正体は。
うわああああああ!!!!
じいちゃあああああああん!!!!!
まぎれもなく、私たちのじいちゃんであった。
しんしんと降る雪の中、懸命に駆けてくるじいちゃん。
さかなクンのハコフグ帽に映ったのは、
前面だけに雪がまぶされ、
そのスピードゆえか、頭頂部には雪が付着していない
じいちゃんの青いキャップだったのだ。
ちょっとー!!
何時から走ってるのー!!
ていうかなんで今日も走ってるのー!!
じいちゃん、見て、この雪だから!!
まじで、ヒートショックとかで、命を落としかねないアレだから!!
いーがら早ぐ家さ帰って、
あったかくして、箱根駅伝でも見でてけろ…!!
いやむしろ、箱根駅伝が彼を駆り立ててしまったのかもしれない。
中継を見ていて、いてもたってもいられず、
ご家族が止めるのも聞かず、
寒空の下へと飛び出して行ってしまったのかもしれない。
そんなことを思いながら、サイドミラーで彼の後ろ姿を見送る。
迷いなく走り続けるじいちゃん。
その背中に、
「よし、今日も気合入れていくか!」
と、胸がスカッと晴れ渡っていくのを感じた。
三が日。祝日も年末年始も謳歌できず出勤する、小売業の宿命。
いつもの公営体育館そばではなく、
職員駐車場入り口付近で彼と遭遇したその日。
私のために、なんらかの運命が
新年初・じいちゃんとめぐり逢わせてくれたように思えて、ならなかった。