純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

桃の花はほころび始めたばかりで

今日、本当は全く違う話を書くつもりだったんですが、
帰宅してあまりに衝撃的な出来事があったので、別な話を書きます。
(キャスター、緊迫した表情を浮かべて)
たった今、新しいニュースが入りました。
速報が入りましたので
番組の予定を変更してお送りいたします、みたいな。

動揺もそのままにそのときの心情を書きとめるのは、
ヴィッツの余命宣告以来だなあ。
いつにもまして支離滅裂になるとは思いますが
久々に、思いつくままに書いてみます。

 

 

さっきね、仕事から帰ってきたんですよ。
そしたらね、
片づけられてたんです。ひな人形が。

 

もうね、最速。
ラクルレコード更新しちゃってる。

 

白あんの回でもちらっとふれましたが、
確かに我が家は近年、
『桃の節句』の、
句、の字が読み終えられた瞬間に、片づける!みたいな
俺は片づけるぞ!みたいなスピード感だったんですけど

もうね、今年は『桃の節k』くらいで、おしまいになった。

たぶん、ひな人形一同、
やっときたーひな祭り!イェー!
みたいな気分で
もう酒も飲んで舞なんか踊っちゃって
あら殿下ったらお顔が赤くいらっしゃってよ、
やや、そなたこそ
オホホホホホホなんつって
三人官女たちにも、
そなたらも今宵は大いに飲みなさい、
ははありがたき幸せ…!なんて言っちゃったりして
宴はこれからだぞっつーとこでたぶん、しまわれた。

 

もう、お上の宴を無断で中断した罪で、
内裏からは大バッシングですよ、日向家。
マサユキ(父)は始末書かなんか書かされてもおかしくない。

 

もう、ガランドゥになった廊下にたたずんで、愕然ですよ。
わかるよ、わかりますよ、
娘、31。名実ともにサーティワン
もうね、わかる。わかるよ、父。
でもね、今日、週半ばなわけです。
水曜日。
思いっきり、仕事の疲れとかそろそろ出始める日なわけです。
で、帰ってきて、まず休ませろーみたいな気持ちのところを
あの重量級の内裏を、
ひとりで片づけたわけです。きれいさっぱりと。

父の願いが、今年こそ切なるものとなっているのが
ひしひしと、伝わってくるわけです。ひしもちだけに。

でね、居間を通過すると
ありがたいことに、
今晩は母が、ちらし寿司とかこさえてくれちゃってたわけなんですけど
あの史上最速ひな人形撤収劇を見てしまったあと、
もうそのちらし寿司がね、そのひとくちが、
こんなに重かった年はない。

 

あのね、実は私、年末前に、
父に、結婚相談所に入れたい、とか言われたわけですよ。

いやもう、コミカルに書いちゃいますけど、
これが思いのほか、ほんと、血みどろロマンティックな話でですね、
青いイナズマが僕を責めて、炎カラダ灼き尽くす、ゲッチュ!なわけで、
まあ早い話が、私は、寝込みました。
「もえこの器量なら、何もないことはないと思ってきました」
とか切々とLINEが送られてきて
イヤこの器量のデンジャラスゾーン度合にいいかげん気づいてって話なんですが、
もうね、支離滅裂なのも、前後の脈絡全くないのも承知で、言います、


ひな人形に昔から命かけてたのは、父なんです。

 

 

私が生まれたとき。
父マサユキは、母方の祖父母といっしょに、
ひな人形を買い求めに、店を訪れたそうです。

 

ところ狭しと、ひな人形が並ぶ中、
どれにしようかねえなんて見ていたら、
ふと、マサユキの姿が見えなくなったと。

 

祖母が、マサユキさん、と探して見回すと、
あるひな人形の前にじっとたたずむ父を見つけたのだという。

 

 

我が家のひな人形は
何段も何段も連なる豪華絢爛なものではないが、
ひな壇が黒塗りで、木が重々しく、シックで高級感がある。

加えて、人形も非常に手がかかっている。
紅の色や顔立ち、ひいては着物の質まで、
なんというか、本気で作られた一級品といった風情を感じる。
幼い頃から何度もひな壇の前に座って
じっと彼らの顔を見つめたことがあるが
見ているうちに厳粛な気持ちになるような、そんな高貴な顔立ちをしていた。

 

祖母いわく、なかなか値が張ったらしい。
予算オーバーであったが、
父が魅入られたように動かない様子に、
観念して購入に踏み切ったのだという。
「マサユキさんもう、その人形の前から、動かなくなって……」
と、帰るなり母に力なくつぶやいた祖母。
本当に申し訳ないかぎりであり、
ありがたいかぎりの話である。

f:id:hinatamoeko:20210303231742p:plain

色塗りをする気力も、ひな人形を描く気力も…
もはや残されておりませんでした、ということに…



それから31年。
もうとっくに『女の子』を通りすぎてしまった女の未来を
一身に引き受けなくてはならないとあっちゃあ、
さすがのチームひな人形だって迷惑である。
まして、二次会は歌会でも!
くらいの勢いで楽しんでいたところを邪魔されたとあっては、
いくらなんでも、かわいそうというものだ。

押し入れの奥で、今頃ブーブーと文句をたれながら
一緒の箱にしまわれたひしもちや、紅白もちをつついて我慢しているかもしれない。
しょうがないから、おやつ会ってことで、なんて。

 

願をかけられてばかりじゃいられない。
チームひな人形が陽の目を見るためにも、
私自身、誰かの願いを叶えられる人間でありたい。

 

 

 

桃の花は、一般に
「私はあなたのとりこです」
なんて花言葉がよく知られているけれど
冬の寒さに耐えて花を咲かすことから
フランスでは「辛抱」「忍耐」の花言葉を与えられているという。

こもこもとしゃべる東北弁はフランス語に近い、なんていうけれど
東北の冬を思うと、
なんだかフランスの花言葉はとてもふさわしいように思える。

 

 

ちなみに、実にも花言葉といえるものがあるらしい。
神話に、『桃を投げて魔を撃退して逃げる』なんてシーンがよく登場するのだが
そこから転じて、その名も
「天下無敵」。

 

 

強く生きよ、私。