純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

ア・ハード・デイズ・ナイト

成人の日、なんて、
まだね、昨日のことのように覚えてる。

 

小学校の同級生と久々に顔を合わせて、
変わんないねー、とか、変わったなーとか。
担任の先生と一緒にタイムカプセル開けて、とか。
つつがなく、お決まりのあれこれが片づいていく中。

その日の夜、中学校の同窓会で、
男子が全員ホスト化してるっていうね、
一種のドッキリみたいな状況。
こればっかりは、どうにも片づけようがなかった。
私が迷い込んだのは市民会館じゃなく、
ひょっとして場末のホストクラブなんじゃない?みたいな衝撃。

午前中の成人式は、もはや前座で、
この衝撃こそが本日のメインイベントだったんじゃない?

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およそ干支が一回りして、今年の、その日。

 

 

いつものように店のカウンターに立っていると、
母親と連れ立って、晴れ着姿で店内を眺めていく女の子。

 

ああ、今日なのか。成人式。

 

まだ、あらゆるものに守られてもいて、
でももうほんの子どもでもなくって、
かといって、臆面もなく『女の子』ど真ん中で。

 

 

「いいなあ、二十歳って」

 

 

今、あの頃に戻れたら、私はどんな道を選ぶだろう。

あの頃に戻れたら。
あの日に戻れたら。

たぶん何もかもが変わってしまうくらい、
選ばなかったことだらけの上に、
今の私は立っている。

 

 

真っ赤な振袖姿の女の子が、レジを訪れる。
同窓会で使うのかな。
パールのついた、アセチの髪留め。

 

会計の終わりしな、さりげなく
「成人式ですか」と笑いかけてみた。
彼女は、はい、午前中だったんですけど、と花のように微笑んだ。

 

その明るい笑顔が、赤いお着物にとても映えて、
とっても可愛くって、
「おめでとうございます」
と心からすがすがしい気持ちで、私は言った。

「やっぱりいいですね、お着物姿って。かわいい~」

と、彼女と、後ろで待っていたお友達の女の子にも微笑みかけてみる。
二人ともちょっぴり照れたように笑う。
うん、可愛い。
ほんとに、可愛い。
いとおしい、という感覚が、近いかもしれない。

 

 

誰が幸せになる、幸せにならない、
そんなこと何ひとつとして思っていなかった、この頃。

 

どうか、彼女たちのこの笑顔が曇ることがありませんよう。
いわれのない悲しみに、身をやつすことのありませんよう。

 

だって私も、あの頃、同じように笑ってた。

 

 

それでも、いいの。
いいの、これで。
きっといいの。

今の私の微笑みは、
あの頃の私には、決して浮かべられないものだから。

 

 

彼女たちを見送りながら、
今どきのハタチ男子は、どんな感じに仕上がってるのかな、なんて思ってみる。
あれかな、最近あれでしょ、
なんかマッシュルーム的な、
テクノカットみたいなの流行ってんでしょ。
てことは、男子が全員ビートルズ、みたいな感じで会場、仕上がっちゃうのかな。
もうあの会館の壇上とか乗っちゃってさ、
ア・ハード・デイズ・ナイト、の鮮烈なイントロが鳴り響く。

120人くらいのビートルズの、ゲリラライヴ。
そりゃもう、いろんな意味で会場も仕上がるわけだわ。

 

そしたらそれこそ、成人式が前座でもいい。
何はともあれ、二十歳。
おめでとう。
進みゆくこの先に、ひとつでも幸多からんことを。