純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

ディスカウントわらびもち

わらびもちが好きだ。

 

ひんやりとして、もっちりぷるんとした食感。
きな粉をしっかりまぶして、黒みつをかけていただくのが最高に好きだ。

 

うちの雑貨屋には、夏になると毎年わらびもちが入荷してくる。

 

季節限定商品で、仕入れの数も少なく、とても買い占めるわけにもいかなかった。
おまけに買い占めるには単価が高く、ひとつ、ふたつ購入してがまんしていたのだ。

新商品として登場した直後は、爆発的に売れる。
しかし数週間もすると…

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驚くほどに人気がない。

どうして私が熱狂する食べ物はこうも人気がないのか。
よく考えたら、スタッフ内でも熱狂しているのは私一人だった気がする。

 

 

「日向さん、わらびもち値下げしましたよ!」

食品担当のナツキさんが、にこにこと声をかけてくれた。
わらびもちの胸に100円の値札が輝く。

賞味期限が差し迫った食品は、
割引いて「お試し品」として販売している。

しかし。

仮にも私はスタッフ…
「100円なら買おうかな」と興味を持つお客様がいらっしゃるかもしれないじゃないか…!
店のためにも…今後わらびもちファンになってくださる方が…増えるのなら…!

 

「買いたいけど…値下げして興味持ってくださる方がいらっしゃるかもしれないから…
もうちょっとだけ待ってみます!」

 

ナツキさんは、日向さんえらい~なんて笑っていた。

 

いいんだ…素晴らしい商品を数多くの方へ行き渡らせるのもスタッフのつとめ…

わらびもちファンになってくださる方が…いるのなら…

 

 

次の出勤日。

 

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いなかった。
しかもさらに割り引かれて50円になってる。

「日向さん」ナツキさんがこそっと言った。
「わらびもち、今日が賞味期限なので…日向さんの分、1つだけ裏にキープしてます」

「ええっ!!」

 嬉しさ半分・後ろめたさ半分の私の表情に、ナツキさんは笑った。

「この様子だと、まぁたぶん全部残るんじゃないかとは思うんですけど」
「えっナツキさ」
「日向さん、こんなにわらびもち好きなのに、ずっとがまんしてくれてるから…」

なっ…

ナツキさん……!!

「大丈夫です、あともう捨てるだけになっちゃうので」

他のスタッフは全員、わらびもちを見限ったらしい。嗚呼わらびもち。

 

かくしてナツキさんの予言どおり、わらびもちは無事すべて売れ残った。
ナツキさんは、「本当はあげたいくらいなんだけど」と値段をさらに割り引いて売ってくれた。

「日向さん、よかったですね!」

手提げ袋を差し出すナツキさんの笑顔が光っていた。

 

激しく値引かれたわらびもちと、共に歩いた帰り道。
温かな気持ちでいっぱいだった。

その晩、家族とわらびもちを分け合った。
優しさがまぶされた10円のわらびもちは、幸せな味をしていた。