純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

ペパーミント伝説

ムズムズする。

何がって、花粉の話である。

 

 

私はおよそ10年前、
大学卒業を間近に控えた3月、
突如として花粉症を発症してしまった。


「いやー、デビューしちゃったってやつですね」
目玉が狂おしいほどかゆくなり、
ついには角膜が卵の白身のようにアコーディオンカーテン化した私を前に、
スツールをクルクルもてあそびながらアッサリと言い放つ医師に
憎しみに似た感情すら覚えたものである。

 


いやー、今年はひどかった。
去年の7倍はひどかった。体感で。
ひどかったついでに、
同じくひどかった年のエピソードを思い出していた。

 

 

去年、おととしと平気だったところを見ると、
あれは3年ほど前のことだろうか。
3月半ばも過ぎ、
例によってくしゃみ、鼻水、目のかゆみのオンパレードの私を不憫に思った先輩が、
アロマコーナーへ行っておいで、と言うのである。
うちの店では精油エッセンシャルオイル)を扱っているのだが、
先輩はまさにそのコーナーの担当者であった。

 

「花粉症に、ティートリー、ペパーミント、ユーカリあたりが効くらしいよ。
 マスクに垂らして着けると、少し楽になるかも」

 

レジは私が見てるから、と先輩はそっと肩を押してくれた。
先輩。ありがとう。なんて優しいのですか。
私は感謝いっぱいにうなずくと、アロマコーナーへ走った。
ペパーミントなら、大好きな香りである。
売場に着くなり、迷わずペパーミントのテスターを手に取り、
私は思いっきりマスクの内側へオイルを振りかけた。

 

 

これでもう、私は無敵・・・

 

 

レジへ舞い戻り、
そう信じて、マスクを装着した、次の瞬間。

 

 

 

劇薬。
ペパーミントオイル、劇物でしかない。

 

もう、マスクの中でのペパーミントの反乱がすごい。
無敵なのは私じゃなくてペパーミントのほうだった。
私はしばらくカウンターでのたうち回り、
あえなくバックルームへ逃げ込んでいく始末であった。

 

 

 

ちょうど最近日常にアロマオイルを取り入れ始めて気づいたのだが、
ペパーミントは、けっこうパワフルな精油なのである。
1滴でそこそこのパワーを放つオイルとでも言おうか。
実際、取扱説明書にも“刺激性のある精油”に名を連ねている。
8畳の部屋に対し、ディフューザーに2,3滴も垂らせば十分。

あのときマスクという小さな世界に対し、
たしか4,5滴ほど振ったと記憶している。
先輩もまさかそこまで振りかけるバカがいるとは夢にも思わなかったのであろう。
そりゃあ、もだえ苦しむわけである。

 

 

以来“マスクへ精油”は恐怖体験となり、いまだ実行できずにいる。
今年の私の症状はピークを越え、落ち着きつつある。
来年こそ試してみたいところであるが、
今年同様の飛散量になることを祈りたいとも思えず、
なんとも悩ましいところなのである。