純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

2020-01-01から1年間の記事一覧

不屈のライフドライバー

人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくものなんやないのかな。 ――村上春樹 2004. アフターダーク 薄明りに目覚めた朝。 また外がウィンターアゲインになってる。 今年の冬はどうやら予想をはずさず、大雪の冬となりそうだ。 今年は例年にも増してTERUの…

ネバーエンディング・ストーリー

クリスマス、クリスマスさえ終われば。 クリスマスまで、耐えしのべば。 トンネルの向こうにはやっと、光が見えるはず。 そう、その、はずだった。 我が雑貨店は年に数度、ギフトラッピングによる繁忙期を迎える。 卒業・お別れシーズンの年度末がトップを守…

だから、いとおしかった

前回クリスマスプレゼントの思い出についてお話したが、 関連してもう一件。 ピー・エス、的なエピソードである。 願わくは、一般家庭におけるサンタクロースの正体をお悟りになったかたのみ、お読みいただきたい。 「おにいちゃんは、何歳のときに気づいた…

ジェフくんの思い出

クリスマス・イブ。 街全体がきらめき出し、浮かれ出し、 子どもたちに夢と希望を与える、聖なる夜。 「いい子にしていると クリスマスの夜にサンタさんがやってきて、 プレゼントを贈ってくれる」 このおとぎ話のようなイベントに 子どもたちは胸をときめか…

ジャッキーちゃんのカレンダー

そんなつもりじゃなかったの。 一度に、二人も手玉に取るなんて。 そんなこと。 年の瀬も間近のこの季節。 厳密に年の瀬とは、いったいいつ頃からを指すのだろうか。 そんな疑問はいったんさておき、時はまぎれもなく、師走である。 カレンダーが、ほしい。 …

おしゃべりなシーズン~番外編~

前回の風景とBGMの話に関連して、もう一件。 川幅が広めの川を見て、モルダウ。 雪景色を見て、ウィンターアゲインや、スノウドロップ。 情景と、それに関連する音楽が結びつくならまだわかる。 しかし私のラインナップの中には、 どれもたいがい「うっかり…

おしゃべりなシーズン

音楽には、風景がある。 よって風景にもまた、音楽がある。 私には物心ついたときから、 特定の風景に対してBGMが脳内再生される習慣がある。 きっと「私も私も」という方も、少なからずいらっしゃるのではないだろうか。 たとえば、川。 小川には反応しない…

冬物語のプロローグ

駐車場へたどり着いたら、車が何者かに襲撃されていた。 …と言うと聞こえは物騒だが、 まごうかたなき事実である。誇張も脚色も一切ない。 遅番帰り。 寒空の下ひとりたたずむ車のもとへ、小走りで近づいていく。 事件はその次の瞬間に、起こった。 余談なの…

恵みのひとしずく

「三浦春馬が出てるドラマの主人公、日向さんにそっくりなんですよ」 9月。 店のバックヤードに荷物を運び込みながら、店長が楽しげに言った。 居合わせたスタッフたちがざわつく。 「あれですか、松岡茉優が主人公の」 「そうそう。髪型もちょうどこんな感…

スパークリング・私

ギフト。ギフト。ギフト。 私の毎日の再頻出ワードは、疑うべくもなく「ギフト」である。 いまや、一日に訪れるお客様の大半がギフト依頼という状況。 年の瀬も目前といった気運が高まっている。 「ギフト」というワードで、思い出すことがある。 以前、姉妹…

四人の侍

師走。 いったい誰なんだろう、年の瀬にシワスという言葉をあてた天才は。 もう、スピード感とか、別格のボス感とか、ほんとよく出てる。 師が走るんですよ。そりゃもう誰もが走りますよ。 調べても結局語源はよくわからなかったけれど、 古来から「他の月と…

ロング・グッドバイ

ラン、ランララ、ランランラン♪ ラン、ランラララーン…♪ いまだかすかに鳴り響く、ヴィッツ・レクイエム。 さんざん苦しめたあのご老体を忘れられるはずもない。 しかし人間の別れと同様、 遺された者は、それでも生きていかなくてはならない。 車検切れは目…

しあわせなおくりもの

「日向ちゃんって、この辺の子じゃないでしょ」 昼下がりのパン屋、レジカウンター。洗い終えたトレーを拭きながら、マツモトさんが言った。 私は進学と共に上京し、パン屋でアルバイトを始めたばかりだった。 その日はパートのマツモトさんと二人で、昼のシ…

トオタル・コオデネイトなのら

通勤用かばんは長いこと、800円のキャンバストートバッグを使ってきた。 うちの店のセールで買って以来、雨の日も風の日も私の左肩で持ち物を守り続けた、黄色のキャンバストート。 これもまた、ギンガム姐さんやヴィッツの例にもれず、 長年の勤労がたたっ…

涙のラプソディ

「もえこせんせ。そうたと、けっこんしますか?」 忘れもしない、私の人生唯一の、プロポーズの言葉である。 お相手の年齢は、4。 場所は、勤めていた幼稚園。年少クラスの水飲み場付近での出来事であった。 しかし彼は数日前に、担任教諭のあんな先生にも…

ロマンスの果て

忘れられないひとこと。 そう、忘れられないほど心に残るのは、いつだって、何気ないひとことだった。 先日ツイッターを始めたのだが、 信じられないことが起こった。 事の始まりは、我が家の茶の間のテレビである。 茶の間がざわついていたので立ち寄ってみ…

愛の都カリオストロ

失恋して逃げ込んだのは、カリオストロの城だった。 29のとき、失恋した。 した、っていうか、させられた。 正確に言うなら、失恋ですらなかった。 あの顛末は、今思い出しても、わけがわからない。 窮地に追い込まれたときの行動で、その人がどんな人間かわ…

たとえアウトレイジでも

世はクリスマスもクリスマス。この国は2ヶ月間クリスマスを開催しないと気が済まないらしい。 そのためか近頃、男性客のギフト購入が増えている。 正直、男性客のギフトラッピングが一番緊張する。だいたいが女性向けのギフトなのだが、ラッピングの良し悪…

暴れん坊将軍KISS

前回白髪についてのお話をしたわけだが、毛つながりでもう一本。 私のくせ毛が、言うことを聞かなくなってきてる。 くせ毛、この道ひとすじ30年。 私のくせ毛が今や、髪の毛であることを忘れようとしている。 くせ毛っつーか、くせ者っぽくなってきてる。 凶…

ホワイトロード

秋もいよいよ深まった、今日この頃。 緑から黄色へ、赤へ。 木々が色とりどりに姿を変えて人々の目を楽しませる中、 私の頭という山にも同じ現象が巻き起こっている。 髪の早期退職が後を絶たない。 抜けているわけではない。 髪が、明らかに色を失いつつあ…

ヴィッツ・レクイエム

もっと、一緒にいられると思っていたのに。 今日ね、車検だったんですよ。2年おきの。 久々にね、本当に久々に行ってきたんですよ、車屋さんに。 そしたらね、 私の車、死にかけだった。 壊れかけのRadioならぬ、壊れかけのヴィッツ。 今日っていうか気持ち…

嘘みたいなアイミスユー

第一印象は最悪だった。 でも今は、アイツが気になってしかたがない―― 小売業のカレンダーは、いつだって未来を走る。 ハロウィーンとかいう 定着したんだかしてないんだかわからないイベントが終わったとたん、 余韻にひたる間もなく今度は「みんな、クリス…

思いがけない告白

店長と遅番を終えた帰り道、 「日向さんって休みの日、いったい何してるんですか?」 と実に不思議そうに尋ねられた。 同僚から見て、私のプライベートは謎に包まれているらしい。 「基本引きこもってるからなぁ」と常々口にしてきた私が、 同じフレーズを発…

オルゴールのいたずら

うちの店ではBGMに有線放送を流しているのだが、 この有線が、聴いているとけっこうおもしろい。 特に私は「季節のオルゴール」というチャンネルのファンである。 季節のオルゴールというだけあって、 四季折々に、その月に似合った曲がオルゴールアレンジバ…

できたの魔法

前回同様チコちゃんがらみの話なのだが、 アフォーダンスという概念をご存じだろうか。 アフォーダンスとはもともと ギブソンという心理学者が生み出した造語だそうで、 「環境世界が知覚者に対して与えるもの」とかいう具合に訳される。 正直なところ、これ…

彼とYシャツと私

NHKの「チコちゃんに叱られる!」が大好きで、 もうこの番組を心の支えに生きていると言っても過言ではないのだが、 先日、少々なつかしさを覚えるテーマを扱っていた。 「シャツのボタンが男女で逆に付いているのはなぜ?」 朝食をとりながら再放送を背中で…

あなたと私のくつした

靴下が好きだ。 靴下を見るのも、履くのも、描くのも好きだ。 集めようとせずとも集まってしまう、 その程度には靴下が好きだ。 うちの店には年に数度、 3足組で500円の靴下が登場する。 これに私は、実に弱い。 というのも、この靴下がなかなかどうして、…

それはまるでつむじ風のような

先日信号待ちをしていて、驚くべき現象を目にした。 そこは見通しの良い交差点で、 左前方にはコンビニがあった。 私は車の運転席から、何気なくそちらに目をやった。 ちょうどコンビニから メガネをかけた男性が出てくるところだった。 男性は右手に弁当の…

2週の間あなたを待っているわ

日向もえこは一見 平凡なアラサー独女だった。 けっして美少女ではなく成績もよくはなかった。 カネ・キャリア・恋人はなく 小さな雑貨店のしがないへっぽこ店員 いったい誰が… そう…この小さな独女の胸に熱く激しく燃える炎のことを…… いったい誰が知っただ…

危険なバディー

ひとには無限の可能性があると、巷ではよくいう。 しかし無限の可能性がある中で、 ひとの命は有限である。 命が無限ならば、 どんな可能性にも、いくらだって賭けたらよい。 どんな能力も、どこまでだって伸ばせるかもしれない。 けれども。 有限の時を生き…