純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

それはまるでつむじ風のような

先日信号待ちをしていて、驚くべき現象を目にした。

そこは見通しの良い交差点で、
左前方にはコンビニがあった。
私は車の運転席から、何気なくそちらに目をやった。
ちょうどコンビニから
メガネをかけた男性が出てくるところだった。

男性は右手に弁当の入ったレジ袋を提げており、
交差点へ向かってゆっくり歩いてくる。
職場に戻るところなのだろうな、
そう思って視線をはずそうとした、次の瞬間。

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彼は、華麗な急旋回を見せ、コンビニへ戻っていったのだ。

 

何が起きたのか、一瞬わからなかった。
私が驚いたのは、以下の点である。
まず、彼が宙に浮いた状態で高速回転したように見えたこと。
次に、飛び上がったにしても、
どちらの足でステップを切ったか、皆目わからない動きであったこと。
最後に、高速回転をもってしてなお、
彼のメガネは微動だにしなかったこと。

 

一点目については、
軸足を定めてぐるんと回るのなら、わかるのだ。
どんなに早く回ろうとも、片足が地についていれば
一般人とて高速回転は可能であろう。
しかし彼の足は両方宙に浮いた状態だった。
それも、コンパスのように開いていたのだ。
その体勢で、彼は華麗なジャンプを披露した。
羽生結弦のシングルループだって
こんな不可解な動きではあるまい。

二点目について。
私が判別できなかっただけで
いずれかの足で飛び上がったにしても、
果たしてどちらで踏み切ったのか、まったくわからない。
それほどまでに、彼のジャンプは一瞬の出来事だったのだ。
両足同時に宙に浮いたようにしか見えなかった。

最後の点については、
さかなクンの帽子よろしく、
メガネは身体の一部ですという主張が
いよいよ真実味を帯びてくるのかもしれない。

 

考えれば考えるほど、わからなくなる。
とても信号待ちのあいだに解決できるレベルの問題ではない。

と、後続車からパフ、とクラクション。
気がつくと信号は青に変わっていた。
あわてて私は車を発進させた。
ガラス越しに彼の姿が過ぎ去っていく。

直進しながら、なおも私はあの謎にとらわれ続けていた。

もうひとつ、気がかりな点を挙げるとするならば、
彼の高速回転で
果たして弁当はくずれなかっただろうか、ということである。