純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

ヘッドライト・クライシス

私は走っていた。血相を変えて走っていた。 話は、およそ三年前にさかのぼる。 三年前のその朝は、吹雪だった。 私はヘッドライトを一段階、点灯させて出勤した。いちめん真っ白で、相当な視界不良であったためだ。 仕事を終え、帰宅しようと運転席に座って…

ナミヘイ・オンザ・ショートケーキ

我らが雑貨店では現在、絶賛いちごフェア開催中である。 いちごの旬はもっと先なのに、なぜ1月にいちごなのか。 『いち』と『1』をかけているのか、 アパレル同様季節を先取りしているのか、 とにかく1月はいちごフェアなのである。 学生時代、アルバイト…

しょうこちゃんの話

今日、渡り鳥の群れが夕空を行くのを見た。 遅番の休憩時間、 職員駐車場へと向かっていたときだった。 少し寒さの緩んだ、オレンジと青紫の混ざる空に 鳥たちの黒い影がくっきりと浮かび上がって見えた。 渡り鳥が群れをなして飛んでいくのを見ると、 きま…

風と共に去りぬ

前回はじけ飛んだワンピースのボタンについてお話ししたが、 ここに記した「それ以上の理由」についてご説明しようと思う。 その理由とは、私の自転車通学の仕方である。 中学以降ずっと自転車通学だったのだが、 どうやらそのライディングスタイルたるや 女…

優しい約束

「そりゃあそうだよ。 人は、自分が出した分を返してくれなかったら 必ずいつか去ってしまうものだ」 ――吉本ばなな 1989.『TUGUMI』 お気に入りの、紺色のワンピースがある。 二十歳の頃から着ているもので、 カシュクール風にもなるし、 エプロンワンピー…

ジャムおねいさん

私がこの世でいちばんうまく付き合えない帽子はベレー帽だと思う。 と、吉本ばなな著『キッチン』の冒頭風に切り出してはみたが、 特に理由はない。 シルクハット、カンカン帽、 テンガロンハット、ニット帽、 ボーラーハット、キャスケット・・・ あまたあ…

イツモシズカニハシッテイル

1月も下旬に近づく今日、 年末年始・3大癒されエピソードとして、 最後はこんなエピソードで締めくくりたい。 三が日、早番の朝。 降りしきる雪の中、私は職員駐車場へと車を走らせていた。 お正月にこの雪では、きっとお客様も少ないだろうな。 無人の歩…

天使のおさんぽ

前回に引き続き、年末年始の印象的なエピソードについてお話しする。 初売り中の出来事である。 我らが雑貨店の年末年始は、クリスマスほど忙しくはない。 家族連れが増えてにぎわうのだが、店を流れる時間はなんとなくゆるやかなのだ。 そんなわけで私は、…

四羽のスズメ

ついこの間まで年越しそばの心配をしていたと思ったら、 夢中になって日々を送るうちにもう1月も中旬。 感動が薄れないうちに、年末年始の出来事について語りたいと思う。 その日は、冷え込みも格別の一日だった。 私はジャケットに身をうずめ、 足早に職場…

おしゃべりなシーズン、season2

ここのところ雪の話ばかりしている気がするが、今の私の日常によく雪が降るのだから、しかたがない。 あきらめてどうかお付き合い願いたい。 以前おしゃべりなシーズンでもふれたように、 雪の情景というものは実に饒舌である。 そんなこともあってか、日向…

あなたとの秘め事

誰にも気づかれてはならない… 秘めていなければならない… この思いを… マヤ…! ――『ガラスの仮面』34巻 第12章 紅天女(1)より ガラスの仮面を、読了してしまった。 チャップリンの自伝を探し求めた先に、 ほとんど運命的に出会った、ガラスの仮面。 ガラ…

笑ってはいけない雑貨店24時

雑貨店に勤めていると、ときどき予想外の角度からオーダーを受けることがある。 「カウンターお願いしまーす」 カウンターから、店長がスタッフを呼ぶ声が聞こえる。 バックヤードにいた私は、あわててカーテンを開けて表へ飛び出した。 「日向さん、こちら…