純喫茶みかづき

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四羽のスズメ

ついこの間まで年越しそばの心配をしていたと思ったら、
夢中になって日々を送るうちにもう1月も中旬。
感動が薄れないうちに、年末年始の出来事について語りたいと思う。

 

その日は、冷え込みも格別の一日だった。
私はジャケットに身をうずめ、
足早に職場へと向かっていた。

 

自分の足もとばかり見つめて歩いていた中、
バタタッ、という羽音ではっと前を見やる。
見ると4羽のスズメが私の襲来に驚き、
あわててそばの生け垣へと飛び移るところであった。

 

ごめんね~、と小さく声をかけながらその地点へ差し掛かろうとする。
4羽も地べたに集まっているなんて、めずらしい。
そこで食事でもしていたのだろうか。
だとしたら、獲物を踏みつけないように通過しなくては。

 

よく目をこらしても、
集まっていた地点には何も落ちていないようである。
不思議なこともあるもんだな、と
まさにその地点をまたぐ瞬間。

 

ブアアアア・・・

 

私の髪を香ばしい風が巻きあげた。
そうだ、この地点は、定食屋の換気口の出口だった。

主に焼き魚とおぼしきにおいが、
生温かい風に運ばれてやってくるのが、この地点であった。
そのことに気づいて私はハッとした。

 

スズメたちは、ここで暖まっていたのではないか。

 

生きとし生けるものすべてが震えるこの寒さの中、
スズメたちはきっと、ここが暖かな場所であることに気づき、
4羽で身を寄せ合って暖をとっていたに違いない。

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そこまで思い至って、私は大いに胸を痛めた。
ごめん。気づけなくて、ほんとにごめん。
せっかく暖かい場所を見つけてぬくぬくとしていたのに、
天までそびえるような人間の襲来により、
心安らぐひとときが奪われてしまったのだ。

 

通過してもなお、私はスズメのことを考え続けた。

スズメは本当は、どうしてあそこにいたのだろう。

 

私は「暖をとっていた」と想像したけれど、
本当は何を思って、どんな過程をたどって、あそこに集まっていたのだろう。
そもそも、「思い」があるのかもわからない。

 

スズメの胸のうちは、どうなっているのだろう。
「温かくて気持ちが良いからここにいよう」ではなく、
体表が温度をより高く感知した場所に
これといった心の動きもなく、とどまっていたのか。

うれしかったの?
あの場所を見つけて、喜んだの?

温かな風に、心安らいでいたのか。
魚の焼ける香ばしいにおいを快く感じていたのか。

 

どうしても心を想像せずにはいられない。

 

心がどこまで存在するかなんて、わかりっこない。
なり替わったことがない相手の胸の内など、
私たちは勝手に決めきれないのだ。


アニミズムなんて学校の授業で習ったけれど、
木々や草花や、
洗面所のコップや、戸棚に置かれたぬいぐるみ、
どこにまで感じる心が宿っているかなんて、
それはもう、想像の域を出ない。
私たちの命しか生きていない私たちには、わかりっこない。

 

わかる、わからないに関わらず、
伝わっているか何も実証されなくても
世界にできるだけ、愛情を注いで生きていたい。

 

大事にされずに平気な心なんて、
この世にひとつたりともないのだから。

 

 

それにしても、一瞬捉えた
スズメが4羽頭を寄せ合っている姿は、実に可愛らしかった。
そろって飛び立つ姿も、
ちょこんと木の枝にとまってみせる姿も。

 

その日は、冷え込みも格別の一日だった。
私はスズメたちが暖かな場所へ舞い戻ることを願いながら、
足取りも軽く、職場へと向かっていった。