純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

しあわせなおくりもの

「日向ちゃんって、この辺の子じゃないでしょ」 昼下がりのパン屋、レジカウンター。洗い終えたトレーを拭きながら、マツモトさんが言った。 私は進学と共に上京し、パン屋でアルバイトを始めたばかりだった。 その日はパートのマツモトさんと二人で、昼のシ…

トオタル・コオデネイトなのら

通勤用かばんは長いこと、800円のキャンバストートバッグを使ってきた。 うちの店のセールで買って以来、雨の日も風の日も私の左肩で持ち物を守り続けた、黄色のキャンバストート。 これもまた、ギンガム姐さんやヴィッツの例にもれず、 長年の勤労がたたっ…

涙のラプソディ

「もえこせんせ。そうたと、けっこんしますか?」 忘れもしない、私の人生唯一の、プロポーズの言葉である。 お相手の年齢は、4。 場所は、勤めていた幼稚園。年少クラスの水飲み場付近での出来事であった。 しかし彼は数日前に、担任教諭のあんな先生にも…

ロマンスの果て

忘れられないひとこと。 そう、忘れられないほど心に残るのは、いつだって、何気ないひとことだった。 先日ツイッターを始めたのだが、 信じられないことが起こった。 事の始まりは、我が家の茶の間のテレビである。 茶の間がざわついていたので立ち寄ってみ…

愛の都カリオストロ

失恋して逃げ込んだのは、カリオストロの城だった。 29のとき、失恋した。 した、っていうか、させられた。 正確に言うなら、失恋ですらなかった。 あの顛末は、今思い出しても、わけがわからない。 窮地に追い込まれたときの行動で、その人がどんな人間かわ…

たとえアウトレイジでも

世はクリスマスもクリスマス。この国は2ヶ月間クリスマスを開催しないと気が済まないらしい。 そのためか近頃、男性客のギフト購入が増えている。 正直、男性客のギフトラッピングが一番緊張する。だいたいが女性向けのギフトなのだが、ラッピングの良し悪…

暴れん坊将軍KISS

前回白髪についてのお話をしたわけだが、毛つながりでもう一本。 私のくせ毛が、言うことを聞かなくなってきてる。 くせ毛、この道ひとすじ30年。 私のくせ毛が今や、髪の毛であることを忘れようとしている。 くせ毛っつーか、くせ者っぽくなってきてる。 凶…

ホワイトロード

秋もいよいよ深まった、今日この頃。 緑から黄色へ、赤へ。 木々が色とりどりに姿を変えて人々の目を楽しませる中、 私の頭という山にも同じ現象が巻き起こっている。 髪の早期退職が後を絶たない。 抜けているわけではない。 髪が、明らかに色を失いつつあ…

ヴィッツ・レクイエム

もっと、一緒にいられると思っていたのに。 今日ね、車検だったんですよ。2年おきの。 久々にね、本当に久々に行ってきたんですよ、車屋さんに。 そしたらね、 私の車、死にかけだった。 壊れかけのRadioならぬ、壊れかけのヴィッツ。 今日っていうか気持ち…

嘘みたいなアイミスユー

第一印象は最悪だった。 でも今は、アイツが気になってしかたがない―― 小売業のカレンダーは、いつだって未来を走る。 ハロウィーンとかいう 定着したんだかしてないんだかわからないイベントが終わったとたん、 余韻にひたる間もなく今度は「みんな、クリス…

思いがけない告白

店長と遅番を終えた帰り道、 「日向さんって休みの日、いったい何してるんですか?」 と実に不思議そうに尋ねられた。 同僚から見て、私のプライベートは謎に包まれているらしい。 「基本引きこもってるからなぁ」と常々口にしてきた私が、 同じフレーズを発…

オルゴールのいたずら

うちの店ではBGMに有線放送を流しているのだが、 この有線が、聴いているとけっこうおもしろい。 特に私は「季節のオルゴール」というチャンネルのファンである。 季節のオルゴールというだけあって、 四季折々に、その月に似合った曲がオルゴールアレンジバ…

できたの魔法

前回同様チコちゃんがらみの話なのだが、 アフォーダンスという概念をご存じだろうか。 アフォーダンスとはもともと ギブソンという心理学者が生み出した造語だそうで、 「環境世界が知覚者に対して与えるもの」とかいう具合に訳される。 正直なところ、これ…