オルゴールのいたずら
うちの店ではBGMに有線放送を流しているのだが、
この有線が、聴いているとけっこうおもしろい。
特に私は「季節のオルゴール」というチャンネルのファンである。
季節のオルゴールというだけあって、
四季折々に、その月に似合った曲がオルゴールアレンジバージョンで流れる。
たとえば冬にはGLAYのWinter,againや、
SPEEDのWhite Loveなんかが流れ始めたりして、
私の心のボルテージは一気に上がる。
ところがこの有線、どういうわけか、
時折「どうしてこうなった?」という驚きの変化球を投げ込んでくるのだ。
閉店1時間前の店内。
私はカウンターで、真剣に書類の整理をしていた。
すると頭上のステレオから、先ほどまでとは毛色の違う音楽が流れ始めた。
「あれ…」
♪♪♪…
「この曲は、もしや…」
店頭で商品整理をしていた先輩も、はたと顔を上げる。
「「なんで、『ぞうさん』?」」
ぞ~うさん♪
ぞ~うさん♪
お~はながながいのね♪
そ~うよ♪かあさんも~
な~がいのよ~♪…
(童謡「ぞうさん」 作詞:まど・みちお、作曲:團伊玖磨)
店内をのどかに流れる、唐突な「ぞうさん」。
イケイケのJ-POPにはさまれて、いったいなぜ?
このチャンネルは、季節のオルゴール。
ということは、この季節にふさわしい選曲のはずだけど…?
!!!
「わかりました!!!」
「母の日!!!」
先輩はしばらくあっけにとられた表情をしていたが、
やがて目を大きく見開き、
「それぇ!?」
と笑い出した。
「そうです!お母さんの曲だから!」
「それかー!いやぁ、確かに母出て来るけどさあ!」
先輩は歌詞を思い出すようにちょっと上に目をやり、
「やるなぁ~有線~!!」
と、ふたたび笑った。
以前から、先輩と私は有線のオルゴールチャンネルに注目していた。
「日向さん日向さん!」
先輩が興奮した様子でバックヤードに入ってきて、天井を指さす。
「B’z流れてる!!」
彼女はいつもミルクティーイェエ~♪
駅のそばの喫茶店で…♪
(B’z「恋心」 作詞:稲葉浩志 作曲:松本孝弘)
※歌詞は一部、歌唱に忠実にアレンジされています
「ほんとだ!!恋心!!」
「まさかのオルゴールチャンネル!!」
先輩と私はB’zの曲が好きである。
しかし、なぜその季節に恋心が選曲されたのかは、とうとう謎のままであった。
余談だが、このチャンネルでは
冬になればもちろん「いつかのメリークリスマス」が流れる。
時には、
激しいブルーハーツがオルゴールに懐柔させられたり、
季節ごとに、ここぞとばかりに童謡が唐突に盛り込まれたりする。
今日も有線のD2チャンネルから、目が離せない。