純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

危険なバディー

ひとには無限の可能性があると、巷ではよくいう。


しかし無限の可能性がある中で、
ひとの命は有限である。
命が無限ならば、
どんな可能性にも、いくらだって賭けたらよい。
どんな能力も、どこまでだって伸ばせるかもしれない。
けれども。
有限の時を生きるひとには、
えてして、得手不得手があるものだ。
そのことをしかと胸に刻む必要があるだろう。

 

毎日のように自動車を運転するのだが。


車体感覚が、いっこうにつかめない。

 

通勤。買い出し。
自動車を運転しない日はないと言っていい。
そんな日々を送るようになって
少なくとも6年は経っているのだが、
いまだに車を我が身として操ることができない。

たとえば片側一車線の道路を走行していて
小さな橋に差し掛かる、なんてぇのは、
私が最も苦手とするシチュエーションの一つだ。
もうね、ムリ。
心臓がグッとすくみあがる。
対向車線に巨大なトラックが
若干センターライン踏み越えて向かってきたときなんかは
もう、祈ってる。
何かわからないものに、祈ってる。

運転席から見て、
左前のタイヤはボンネットの中央にあると思っていいと。
自動車学校で習ったからもう、必死に、
ええとここにタイヤだから、
もうちょい、左に、寄れるのかな・・・
でも、そしたら橋の欄干に車体スらないかな・・・
でもでもこの寄せ具合で、
対向車のトラックとクラッシュしたらどうしよう・・・
ああ・・・ままよ・・・!!!
なんて思考をめぐらせている。

 

私が対向車のドライバーだったら、
こんな捨て身のドライバーなんて絶対に嫌である。
互いに命がいくつあっても足りない。
周りの世界のためにも、
なんとかもっと上達したいと、心掛けてはいるのだが・・・

 

保育士時代、こんな話を聞いたこともある。

 

職員室で製作の準備をしながら、先輩がおもむろに話し始めた。

「あたしその朝、すごい急いでて」

まだお子さんも幼かったその頃、
先輩の朝は毎日がタイムトライアルで、
中でもその朝は、とびきり急いでいたのだという。

「たぶんもう、すごいスピードで車走らせてたの。
で、職場着いたら、
片方のサイドミラー、なくなってて」
先輩はコーヒーを口にし、続けた。

「あわてて戻ったら、警察の人がいてさ、
ミラー持ってて。
話聞いたら、なんか」 

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「電柱にぶつかってミラーごと折れたって」

 

「そんなことあるんですか!?」
「ねぇ~びっくりだよね」
先輩はあきれ気味に笑いながら言った。

「ミラー折れて気づかないなんて、
相当スピード出してた証拠ですよって言われた」

先輩はいったい何キロで走行していたのだろうか。

 

車体感覚。
ドライバーにとって車は相棒。
ドライバーと車のボディは、一心同体。
わかっていて当然のように言われるけれど。
自分じゃないものを、自分のように操るのは、
なかなかどうして、非常に、むずかしいことだ。
きっと、誰にとっても。