純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

おしゃべりなシーズン

音楽には、風景がある。
よって風景にもまた、音楽がある。

 

私には物心ついたときから、
特定の風景に対してBGMが脳内再生される習慣がある。
きっと「私も私も」という方も、少なからずいらっしゃるのではないだろうか。

 

たとえば、川。

 

小川には反応しないのだが、
川幅がやや広めで、ゆったりと流れている川を見ると、
問答無用でスメタナの「モルダウ」が脳内再生される。

河川敷で少年たちが野球に興じていようと、
土手の上を蛍光パンツでジィちゃんがジョギングしていようと、
いかなる状況下でも、これは必至である。

 

モルダウ」はクラシックにうとい私が
学生時代に音楽の授業で出会った曲で、
メロディーの美しさと曲の構成、
壮大さと憂いを含んだ曲調に大いに惹かれた。
今でも大好きな一曲である。

初めて聴いたときに、
スクリーンにヴルタヴァ川の映像が流れていたことが
この脳内再生に繋がっているのだと思われる。

 

心が動いた瞬間の、風景。
おそらくそんな風景に、音楽がセットとなって立ち現れるのだろう。

 

そんなわけで
いくつかの風景に対して音楽の脳内再生がなされるわけだが、
中でもとりわけ雪の情景に関しては、
バリエーションに富んだラインナップが用意されている。

 

出勤時。
積もりに積もった雪が、街を彩る。

淡く透きとおった青空。
太陽の光に照り映える、真っ白な街並。
その風景から流れ出す音楽は、
ラルクアンシエルsnow dropだった。

 

運命ィはァァーー!
不思議だねェーーー!!
錆びついーてェー…
ってHYDEが歌う声が聞こえてくる。
情景の中に浮かび上がる。

 

真っ白にまぶしく輝く街の風景。
それは夢見るような風景。

豪雪に耐えた街が見せた、
美しく、どこか平和な風景であった。

 

戦いは終わった。
そうどこか安堵しながら、足取りも軽く職場へと向かった。

 

4時間後。

 

休憩時間、弁当を携えて外へおもむくと。

 

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ぅ逢ァーいーたーいッから~アァ~!!
になってるー!!!
GLAYWinter,againになってるー!!!!

 

ちょっと!!
私が目を離した4時間で、いったい外に何が起こったの!!

 

もう、猛威を振るってる。
デビューしたての雪が、若さに任せて暴れ狂ってる。

その情景からは間違いなく、
TAKURO渾身のギターソロが聞こえてくる。
吹きすさぶ雪に、悲痛さをたたえて叫ぶギター。
それにしても「吹きすさぶ」という日本語は、
語感といい本当によくあの有様を表しているとつくづく思う。

 

その日私は、Winter,againをBGMに、
荒れ狂うライトグレイの世界をごはんのおともに、弁当を食べた。
ガラス越しに繰り広げられるドラマは、
自分が今どこにいるのかわからなくなる異次元ぶりであった。

 

帰り道。
豪雪にフロントガラスをベチベチ打たれながら、
私は今年もTERUのモノマネで、一人Winter,againに興じたのであった。

 

あの雪に出逢うたびに、風景が歌い出す、ウィンターアゲイン。

 

音楽と思い出はセットになって、私たちの人生につきまとう。
うれしい思い出も、少し苦しい思い出さえも。

おそらくは人が、
感じる力を源にして、生きているから。