純喫茶みかづき

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おしゃべりなシーズン~番外編~

前回の風景とBGMの話に関連して、もう一件。

 

川幅が広めの川を見て、モルダウ
雪景色を見て、ウィンターアゲインや、スノウドロップ。


情景と、それに関連する音楽が結びつくならまだわかる。
しかし私のラインナップの中には、
どれもたいがい「うっかり」で発生した
どう考えても事故としか思えないマッチングが、少なからず存在する。

仕事でもうっかりが大きな代償を払うケースは多々あるものだが、
情景と音楽もまた、
うっかりすると、取り返しのつかない悲劇を引き起こしかねない。

 

 

忘れもしない犠牲の一曲は、
稲垣潤一の、「クリスマスキャロルの頃には」。

 

 

当時私は保育士として子育て支援センターに勤務しており、
冬のお誕生会へ向けて
「おでんシアター」の作成に勤しんでいた。
おでんシアターは、おでんの具が登場キャラクターとなっており
だいこんさん、はんぺんさん、こんにゃくくん、などなど
みんながお鍋に入ってあったかいね、みたいな話である。

そのキャラクターたちを、
だいこんは白いタオルをぐるぐる巻きにして、
こんにゃくはグレーのスポンジを三角に切ってなど、
身近なものを使って一つ一つ、自宅で手作りする。
むつむつと作業に勤しむのでは味気ないと思い、
私はウォークマンで音楽を聴きながら進めることにした。

 

このとき白羽の矢が立ったのが、
クリスマスキャロルの頃には」である。

 

私は幼い頃からこの曲に惹かれており、
イントロからメロディー、サウンド
何もかもに「かっこいい曲だなぁ」とシビレていた。
せっかく黙々と作業に勤しむのなら、
大好きなこの曲をリピートしながらがんばろう、と考えたのである。

何度も繰り返し聴きながら、せっせとおでんの具を作った。
目の前に並べ、試行錯誤しながら丁寧に作った。
その間、決して途切れることなく、
稲垣潤一は私の耳元で歌い続けた。

 

 

おでんシアターは、練習のかいあって無事成功を収めた。
子どもたちは夢中になっておでんの具を見つめていた。
私はあの子たちのわくわくした瞳を見て、
おでんシアターを選んで本当によかったと振り返っていた。

 

その週末。

 

休みの日、「クリスマスキャロルの頃には」を聴きながら
掃除機をかけようとしたときのことである。

 

ウォークマンの再生ボタンを押して間もなく、私は異変に気づいた。
あの、キラキラしたイントロが始まった瞬間、
以前は思い浮かぶはずもなかった情景が、ありありと浮かび上がってきたのである。

 

 

 

なんで、おでん。

 

 

 

間違いなく、おでんだった。
それも、私が畳の上に何度も並べた、
割りばしに刺さった白タオル、スポンジの。
あの、おでんの具であった。

 

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Aメロを過ぎ、Bメロ、サビに至っても、
おでんたちが消え去る気配はない。
せつなくロマンティックな世界観がブチ壊しである。
「♪お互いを~わか~り~す~ぎ~てい~て~」などと
稲垣潤一がアンニュイに歌い上げる背景で、
だいこんとコンニャクが背中合わせにじっとたたずむ。
こんなトレンディなおでんを、いまだかつて誰が見ただろうか。

 

この刷り込みから、私はいまだ解放されていない。
私はおそらく生涯、この曲を聴くたびに
あの手作りおでんを思い浮かべてしまう呪われた運命にあるのだろう。
私はあの作業のBGMにこの曲を選んだことを、今でも心底悔やんでいる。

 

 

悲劇はこれだけにとどまらない。
尊い犠牲の二曲目は、KAT-TUNの「Real Face」である。

 

 

その頃はKAT-TUNが華々しくデビューを飾った頃であり、
彼らのデビューシングルReal Faceは爆発的なヒットを飛ばしていた。
流行に気づかずに終わってから知る派閥の私でさえ、
リアルタイムで把握できたレベルの流行ぶりであった。

 

ところがこの奇跡が悲劇を生む。

 

どういういきさつかさっぱり思い出せないのだが、
高校生の私は英語の授業中、
英語教諭のホリウチの解説をぼんやり聞きながら、
うっかり脳内でリアルフェイスを再生してしまったのである。

 

「このパラグラフの前に…」(ギリギリでいーつも生きていたいからァ~♪)
「この文脈の前後で…」(ア~~ア~~!!)


ホリウチが懸命に解説を試みる中、私はいよいよ焦り始めていた。
リアルフェイスが鳴りやまない。
ホリウチの顔を見つめても、彼らのオンステージは続く。
やめろ、やめるんだ私…!授業に集中するんだ…!
脳内で必死にKAT-TUNをステージから叩き出そうと試みたものの、
彼らはパフォーマンスをやめようとはせず、
とうとうホリウチが彼らと融合し、
KAT-TUNの世界に仲間入りしてしまったのである。


疾走感あふれるAメロ前のギターに合わせて、
無数のライトを浴びながら、
生成りのベストにネクタイを締めたホリウチが踊り狂う。
しまいにはラップまで披露しだしたから手に負えない。

 

やめて…やめて先生…!
いいから授業に集中して…!

 

授業に集中していないのはどう考えてもホリウチではなく私なのだが、
この怠惰な授業態度を、まさか10年先まで後悔することになろうとは、
このときは思いもよらなかったのである。

 

おでんの例にもれず、このケースに関しても同様の悲劇は続いている。
リアルフェイスを耳にするたびに、彼が踊り狂う姿がよぎってしまう。
クールでキレキレの空気感が、一気に忘年会のおやっさんの空気にトーンダウンである。
10年以上経過した今なお、その呪いは解ける気配を見せない。

 

他にも、EXILEのHEROでは数学教師を思い出してしまうし
(これは兄の部屋に入り浸っているとき、彼が授業で見せた奇怪な動きを
この曲に合わせて兄が披露してしまったためである)、
その後数学の授業で彼を目の当たりにするたびに、EXILEの曲の数々が犠牲となった。
私はどれだけ不真面目な姿勢で授業を受けていたのであろうか。
返す返すもあきれ果てる。

 

 

音楽に思い出はついてくる。
思い出にもまた、音楽がついてくる。

哀しいマッチングとなってしまったが、
これらを脳内再生するたび、
クスッと懐かしくなってしまうのもまた、事実なのである。