純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

だから、いとおしかった

前回クリスマスプレゼントの思い出についてお話したが、
関連してもう一件。
ピー・エス、的なエピソードである。
願わくは、一般家庭におけるサンタクロースの正体を
お悟りになったかたのみ、お読みいただきたい。

 

 

「おにいちゃんは、何歳のときに気づいた?」
中学生の頃、食卓でぐだぐだとだべりながら、兄に問いかけた。
サンタクロースの正体についてである。


「あぁ」兄はちらりと上に目をやって、
「俺、けっこう早い段階で悟ってたよ」

 

私はというと、前回のジェフくんの件
少々不自然さを感じつつも、
10歳くらいまでの数年間、サンタクロースは
あのふくよかな好々爺を思い描き続けていた。


「どうやって知ったの?」
「いや、それがさ」
兄は苦笑しながら、おかしそうに話し始めた。

 

「俺たしか、ラジコンほしいって言って。

朝起きたら枕元にガッチリした箱置いてあって
わーって、開けようとしたら」

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「裏にダイエーのシール貼ってあってすべてを悟ったわ」

なんて我が家らしい発覚理由。
そのツメの甘さが、日向ブランド。

 

「それは、、、、悲しくなかった?」
「んー、悲しくはなかったな。
あー、そーいうことかーって」

兄はアッサリ言い切った。
まだ本当に幼い頃だったそうだが、なかなかに懐の深い少年である。

 

でも、わかる。

 

子どもはだいじなことを、静かに悟るのだ。

 

 

私もそういえば、
もしかしてと思ったとき、
正体に気づいたとき、
決してつらくはなかった。
泣きもしなかったし、憤慨もしなかった。

 

子どもはだいじなことをたいてい、
ひとりきりでいるときに、静かに悟る。

 

自分の親が一生懸命、
夢を演じようとしていてくれたことを、
どうして悲しむだろうか。

 

そりゃあ、夢が消えていったような喪失感は、ちょっと味わう。
ガッキーも鼻水とか出るんだ、くらいのテイストで、
ふっと胸のともし火が消える感覚を味わうだろう。

 

でも、
失った夢から、
痛いほどのいとおしさが生まれてくることに、
子どもたちはきっと気がつく。

 

よくできた夢なんてやっぱりなかったけれど、
その夢を現実のものとしようと、
誰かが人知れず汗を流してくれていたこと。

 

ずっと、がまんしてくれていたんだ。
ないしょで、がんばってくれていたんだ。
子どもの夢を叶えようと、
慣れない演技をして、
細心の注意を払って、泥臭く。

 

 

ガッカリさせてしまうくらいなら、
初めから嘘なんてつかずに、
堂々とそのままに贈ればいい話。

そんな意見もあるかもしれない。

 

でも、私は思うのだ。
あの一瞬の夢が遺してくれたものも、確かにあると。

 

 

最後のサンタクロースからのプレゼントは、
確か小学6年生の年だった。
正体がわかりきっている状態で、
「今年が最後ね」と、もはや公然と行うイベントとなっていた。

 

私は「ちびまる子ちゃん14巻」をオーダーした。

 

25日の朝。
枕元には確かに、
ベージュの紙に包まれた単行本サイズのものがあった。
包みを開くと、間違いなく、ちびまる子ちゃんの14巻であった。

 

その包みを開いたときの、
なんともいえない心情は今でも覚えている。

ときめきも気分の高揚も何もない。
もちろん嬉しいけれど、
「だよね」という、
お互いにわかりきったやっつけ仕事を共同でこなした感。
そこには、特になんの感慨も生まれなかった。

 

 

繰り返すけれど、もちろん嬉しかったのだ。
振り返るときに、ジェフくんがいなかった日を心になぞりながら
恐怖心をうっすら蘇らせながら振り向くくせがついてしまったが、
そこにちゃんといてくれたことへの、安堵感もあった。

ただ、心の震えが、なかっただけ。

 

 

あの空虚さを経験してなおいっそう、思うのだ。
なにもかもを悟ってしまう前に、
信じられないほどロマンティックな夢物語に心躍らせた瞬間があり、
そして、その夢が覚める瞬間があって、よかったと。


子どもの知らぬところで一生懸命奔走していた姿、
子どもを幸せにしたくて、不器用ながらに力を尽くした姿、

その姿に思いをはせたときに感じた、
胸がきゅっとなる、いじらしさ、いとおしさ。

 

思い浮かべたその姿から伝わってくるもの、

それは確かに、「愛」だったと思う。

 

乙なものではないか。
ダイエーのシールも、
在庫切れで手配できないジェフくんも、
手落ちだらけの、
私たちのよく知るサンタクロースが
一生懸命お仕事をした中で生まれた、いとおしいエピソード。

ひとりきり、ふっと悟ったとき、
次の瞬間にはあふれ出して止まらないものだ。

「いとおしい」という感情が。

それは子どもがひょっとして
サンタクロースを通して、
生まれて初めて出会うことになる大切な感情かもしれない。

 

世界中の、サンタさん。
このたびはたいへん、お疲れさまでした。

失敗しても、どうか落ち込まないで。
あなたの愛は間違いなく、
子どもたちの心を、のちのちまでずっと、支え続けるから。