純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

スパークリング・私

ギフト。ギフト。ギフト。
私の毎日の再頻出ワードは、疑うべくもなく「ギフト」である。
いまや、一日に訪れるお客様の大半がギフト依頼という状況。
年の瀬も目前といった気運が高まっている。

 

「ギフト」というワードで、思い出すことがある。

 

以前、姉妹店にヘルプで出向したときのことだ。

 

姉妹店の皆さんは本当に優しく、
私は訪れるたび再会を喜んでいた。
ただ毎度、自分なんかでヘルプが務まるのかと申し訳ない気持ちで出向いていたが、
皆さんはいつも「日向さんだ!」と温かく歓迎してくれた。
その優しさに、私はいつもいつも、救われていたのだ。

 

 

そんな優しい皆さんに、私はとんでもないお返しをしてしまう。

 

 

あれは、6月。
父の日を間近に控えた時期のことである。

その日私は、父の日用ギフトセットの増産を任された。

自店で作成するときとは、また違った緊張感が体を包む。
ここは姉妹店。少しでも、お役立てできるセットを作らなくては。

 

私はせっせとギフトセットを作った。
センスには自信がないけれど、一生懸命作った。

ギフトボックスにリボンをビシッと巻き、ふうと息をつく。
残すは、ギフトセットの内容の記入のみだ。

 

うちの雑貨店では、ギフトセットの裏に
ギフトの内容物・価格などすべてを記した紙を貼りつけている。
レジ打ちする際、主にスタッフがその用紙を見ることとなる。
それ以外の場面ではあまり人の目にふれることもない、
けれどなくなっては困る、
そんな縁の下の力持ちである。

私には、その用紙がさほど目にふれられないことをいいことに
ギフトセットのタイトルでふざけるという、悪い癖があった。

 

お客様は誰も見ないからこそ、
スタッフしか見ないからこそ、
ちょっと遊び心を発揮したって、いいじゃないか。
しょせん日の目を見ないのなら、
思いきりハジケさせてあげたって、いいじゃないか。

 

いいだろう。
おまえがどんなヤツかなど、自店スタッフは皆よくわかっている。
しかし、こと、姉妹店となると、話は変わってくる。

 

 

 私、なんで、姉妹店でハジケちゃったんだろう。

 

 

おそらくは緊張が解けた瞬間、
言い訳をするならば、父の日も近く少々立て込んだ日の
勤務時間残り1時間を切った時間帯とあって、
私の頭はちょうどいいあんばいに、イカレ狂っていたのだろう。

あろうことか私は姉妹店で、
いつものノリで、ギフトセットの名づけを果たしてしまったのである。

お疲れ様です。
そう晴れやかに笑いながら、いつものように皆さんに別れを告げた。
いつもと変わらぬ、温かな別れの瞬間。
そのときはまさか、あんな悲劇が起こるとは、思いもよらなかったのだ。

 

 

翌週の、ヘルプ出向の日。
姉妹店へ到着するなり、売場をぐるりと一周する。
売場には、私が作ったギフトセットもちょこんと置かれていた。

 

飾ってくださったんだ。
ほんのりうれしい気持ちで見上げ、
ギフトに貼られた価格ポップを見て、私は愕然とした。

 

「漢の身だしなみギフト~俺のハンカチはシワ知らず~」
「銀河のくつしたギフト~お父さん、足もとが宇宙へ旅するの巻~」
「幸福の黄色いギフトセット~自分、不器用ですから~」

 

!!!!!!!!!!!


うそーーーー!!!!
ぜんぶ書いてるーーーー!!!!
包み隠さず書いてるーーーー!!!!

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もう、赤面。
自分で書いといて赤面。
だって裏にこっそり、のつもりだったから。
まさか表に大々的に書かれてしまうとは、夢にも思わなんだ。

 

私は泡を吹きながらレジカウンターへかけ込んだ。
「わ、わ、私の、ギフトセット、タイトル、ポップ…!!」
原始的な形で必死に日本語をつむぐ。
だめだ、これこそまさに、言葉にできない。

店長は「ああ」と微笑み、
「私たちでは思いつかないアイディアで…!!」
「ね!」
「素敵なタイトルだなって…」
「そのまま書かせていただきました!」
天使の微笑みでうなずき合う姉妹店スタッフの皆さん。
やめて…天使すぎる皆さん…
いけません…私の悪ふざけをそんな…!
こんな素晴らしいスタッフが揃っているのに、
外部からまぎれこんだ不良スタッフのために
店の看板に傷がついたらどうしようというのです…!


もうね、平謝りです。
ごめんなさいちょっとっていうか、
だいぶ、ノリでつけちゃって…
まさか表に書いていただけるなんて夢にも思わず、
裏なんてスタッフしか読まないから
ちょっとした遊び心で…って、
言いながら、大反省会です。
私はヘルプ先にいったい何しに来てるんだと。
あまつさえポンコツスタッフだというのに、
イカレたポップを増産して帰っていくという愚行。
姉妹店的には、激しくマイナス。
レジで今にも土下座せんばかりの勢いで弁明する私。
誰よりもヘルプが必要な状態なのは、私自身だった。

 

しかし、姉妹店の皆さん、
そんなことないです!
みんなで、勉強になるねって、話してたんですよ!なんて。
本当に天使だった。
どうしてこんなにも受け入れ容量が大きいのか。
穴があったら入りたい。
この方々に、共に汚名を着せるマネをした己を恥じ入るばかり。
ごめんね、ごめんね皆さん…!!
日向の悪ふざけを、どうか、お赦しください…!!

 

その日も姉妹店の皆さんは変わらず温かく、
不良スタッフを包み込み続けてくれたのだった。

 

 

数日後、自店レジカウンターにて。

「昨日ヘルプ行ったとき見たんだけど」
先輩は話しながらもはや笑っていた。
「ギフトセットのタイトル、あれ、日向さんでしょ」

 私は笑ってうなずくほかなかった。
「はい、そうです」
先輩は「何やってんの!」と大笑いしながら、

「びっくりしたぁー。なんかもう、うちの店みたくなっててさあ!」

 

かくして雑貨店とは、
一見微力とも思える一人一人の色が混ざり合って、出来上がっているものらしい。

その一色を担う者として、
それを胸にしかと刻んで店先に立とうと決意を新たにし、
真面目くさった顔でギフトセットの裏に書き込むのである。
「笑って、笑って、笑ってキャンディセット」と。