愛のショコラパイ
ただいま我らが雑貨店では、絶賛バレンタインデーフェア中である。
年がら年中何かしらの祭りに参加している気がするが、まあ、いいだろう。
そんなわけで、店頭にはチョコレートが所狭しと並んでいる。
フォーマルな箱入りチョコレートに、ポップなお配りチョコ。
キャピキャピとはしゃぐチョコレート売場の輪の中に、
それこそ年がら年中扱われている定番品としてにも関わらず
ここぞとばかりにちゃっかり仲間入りし、もてはやされる商品がある。
スティックショコラパイである。
スティックショコラパイは、
普段からギフトに選ばれることの多い人気商品である。
ただし年中店にスタンバイしていることもあり、
これといって特別見向きもされずに、日々地味に活動している。
その人気の微妙な薄さたるや、
ちびまる子ちゃんでいえば関口くんクラスとでも言おうか。
そんな彼らがちやほやされる唯一の機会がバレンタインなのである。
2月初め。
きたるバレンタイン商戦に備え、
スティックショコラパイが大量に入荷した。
すると、検品を進めていたスタッフが悲鳴を上げた。
「やだぁ、ちょっと何コレー」
彼女はもはや笑っていた。
「これだけすごい焦げてるー」
松崎しげるだった。
キラキラと砂糖がまぶされて白く輝くショコラパイの中に、
一本、まぎれもなくそこには、松崎しげるがいた。
「どうしよう、これ一緒に出せないよね」
「いや、でも…炭!までいってないし」
「確かにこんがりで美味しそうといえば美味しそうですよね」
「でも他のがみんな白っぽいのに、アレ?ってならないかな」
「ほら、松田龍平と松崎しげるで、
松崎しげるが好き!って人もいるわけで」
「やめて何そのたとえ」
「お菓子としげるを一緒にすんじゃないよ」
さんざん協議された結果、
スティックしげるパイはギフトセットに組み込まれ、
単独でディスプレイされる結果に落ち着いた。
松崎しげるもソロ活動だったのだから、
ちょうどよい着地点といえよう。
ところで同様の事態は
パン屋でのアルバイト時代にも経験したことがある。
数あるパンの中で、三本の指に入るレベルで好きだった
紅茶メロンパン。
ほのかに香る紅茶の香りとメロンパンの甘みが
絶妙なハーモニーを奏でる一品で
アルバイトの学生の間でも人気が高かった。
その紅茶メロンパンが、
時折どういう手違いか、焼かれ過ぎて登場することがあった。
もう、しげる。
地獄の業火で焼かれた帰りみたいなメロンパン。
もうこれメロンパンじゃなくておせんべいじゃない?って勢いの
しっかりしたブラウンに、私たちは言葉をなくすほかなかった。
厨房でどんな手違いがあったのかは知らぬが、
こうした事故が、ときたま起こっていたのである。
けれど、思うのだ。
こうした不格好なお菓子が登場するたびに
「あぁ、何かしらの形で、人が関わっているんだなぁ」と。
何かを誤ったのか、もしくは何かを試みて失敗したのか。
その過程に、人が関わっていたぬくもりを感じてほのぼのする。
てっぺんからつま先まで、
機械的に、無機質に処理されただけじゃない何かを、そこに感じる。
余談だが、しげるパイのギフトセットは無事買い取られていった。
あれきりしげるナイズされたスティックパイにはお目にかかれておらず、
いま少し、寂しささえ感じている次第である。