純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

心頭滅却すれば火もまた涼し

生きとし生けるものの一員として、少々心配になった出来事がある。

私の着物・浴衣は押し入れの天袋が定位置なのだが、
この夏うっかり虫干しをしそびれ、
今日あわてて風を通して、防虫剤を添えて、
さあ天袋エリアに戻すぞ、というとき。

天袋と言っても、
我が家の押し入れはふすまがついたタイプではなく、
中からエイヤっと持ち上げて置くつくりになっている。

30の体にムチ打って
懸命に重たい着物類を持ち上げ、
押し入れを出ようとしたときのこと。

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はて?

白くふわぁっとたなびいた三本の筋が目に入った。

ははあ、さてはクモの巣だな。
いかんいかん、早いとこ始末を。

指でふっと取り払おうとしたら、
なんと私の髪の毛だったのね。
光の加減で白く光っただけで、
まごうかたなき私の毛。
どうやら押し入れの壁に打ちつけてある
クギの頭に、うまいこと引っかかってしまったらしい。

三本の矢ならぬ、三本の毛。
まったく気がつかなかった。
抜けた気配など、まったくなかった。
束になっておまえら私をどうしようっていうの?
いったいどういうこと?って訝ったけど、
どういうことも、こういうこともない。
私の髪の毛が音もなく三本抜き去られた、
ただそれだけのこと。

でもさ、痛みもなく三本一気に抜けるって
私の痛覚いったいどうなってんの?って話。
ちゃんと機能してる?
30になって、強くなりすぎちゃって、
もう何の痛みも感じなくなっちゃった?
そのうちバッサリ一太刀斬られてんのに、平気で買い物行っちゃったりするんじゃない?
無敵にもほどがあるんじゃない?
マリオのスター状態だったの?

ねえとりあえず、じゃあさ、
押し入れの釘に引っかかってはりつけの刑みたくなってる三本の毛のために、泣いてみようか。
毛よ、どうか安らかに。

無敵でもなんでもいいけどさ、
ひとの痛みは、感じられる私でいたいから。