純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

3.14のビションフリーゼ

ここのところ、春の新商品が続々と入荷している。
クッションカバーやマット類、
桜柄の食器に、UVカットストール。
2月の大雪にまぎれて、
いかにも盛夏用のノースリーブのワンピースが入荷してきたときは
スタッフ一同さすがに驚いた。

 

先日、
その驚きを上回ってあまりある商品が仲間入りした。

それが、これである。

 

 

 

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さながら肉まん人間とでも言おうか。
タグの説明には『ビションフリーゼ』とある。

 

ビションフリーゼと言ったら、
20年ほど前に誕生した
『アフロ犬』というキャラクターのモデルとなったとおぼしき犬種で
まあ、なんつーか確かに、丸い。
丸いけど、円周率のお手本みたいに
ここまでまんまるになるともう
ビションフリーゼのアイデンティティがいよいよあやしくなってくる。

 

検品をしながら先輩はため息をついた。
「これさあ、小さい方はまだ可愛くていいのよ。
 大きい方がさあ、もう、ただの丸なの。
 なんかもう、なんの生き物か全然わかんなくなっちゃってて」

「ほんとだ…」
「しかもなんか、しゃくれてません?」
「力石みたくなってる」
「誰ですかそれ」
あしたのジョーの」

力石を力なく見つめていると、

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 先輩は唐突に力石の顔面をつかんだ。

 

「な、何するんですか!!」
「いやもう、ならしてどうにかなんないかなー」

 

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ビシバシと顔面をいじめ倒す光景は
もはや動物虐待のワンシーンである。
間違ってもお客様には見せられない。

 

先輩たちの努力もむなしく
”死にかけの力石”の域を出られなかったビションフリーゼは
仕方なくそのまま店に放たれることになった。

 

子どもウケをねらって、
Sサイズ力石は、子ども服売場にもディスプレイされていた。

他の、ネコやうさぎ、
ブタたちと一緒に仲良く並んでいるのだが…

 

 

か・・・

 

かわいい・・・・・・

 

 

文句なく、可愛いのである。
陳列された春色のカーディガンに
淡い色合いの力石たちがピッタリとマッチして
ドリーミーな空間を見事に生み出している。

 

私は、先ほど共に彼らを酷評した後輩に、
「ねえ、あそこ(力石エリア)、すごくかわいいね…」
と半ば信じられないといった様子でつぶやくと
「ですよね! 並べてみると可愛いなって」

よくよく見るともちろん、
力石は変わらずまんまるの肉まん人間に相違ないわけであるが、
こうして仲間と並んでみると、その姿は輝いて映った。

その様は、多くのアイドルグループに通ずる
「単体だと味気なくなってしまうが
集まると互いの魅力を引き出し合って、輝きを見せる」現象を彷彿とさせた。
断っておくが、
これといって特定のアイドルグループを引き合いに出したわけではない。

 

 

しかしあくまでこれはSサイズ力石の話であり、
間もなく私は、インテリアコーナーで
『肉まん人間』に加えて『しゃくれ』まで併発したLサイズ力石が
とてつもない存在感をかもしながらディスプレイされているのを発見することとなる。

 

Lサイズ力石は無事、里子に出ることができるのか。
今後の売れ行きを真剣に心配する次第である。