純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

ハンサムな彼女

関東首都圏が大きめの地震に見舞われて、およそ3週間。

 

 

地震大国、ニッポン。
近頃の地震速報に、以前ならほとんど登場しなかった地域も名を連ねるようになった。
もはやこの国のどこにいても大地震に見舞われる可能性があると言ってもいい。

 

 

私の住まう地域も、それなりの頻度で大地震を迎える運命にある。
特に今年の2、3月は久々に立て続いた。

どっちの月にも特筆すべき点はあるのだが、
2月をすっ飛ばして3月の地震時について語ろうと思う。

 

 

3月の、あれは夕刻時だった。

 

 

職場のレジで、お会計を受けている最中。
はじめ、ふわりと。
おや、ひょっとしてと思う間もなく
次の瞬間には商品棚がガタガタと音を立て、
辺りが大きく揺れ出した。

 

 

あああ~~、来た。
また、来たか。

 

 

学生時代から何度も訪れた定期イベント。
震度5弱。震度5強震度6弱
その都度微妙に間をあけて訪れて
毎度Every Little Thingの『出逢った頃のように』みたいな
季節が変わってもきっと色あせないはずだよ、みたいな
初対面の新鮮さを失わない、このタチの悪さったらない。


半ばうんざりしながら、
さりとて緊張感はそのままに。
なぜならこのとき目の前には、
まさに今アクセサリーの会計を済ませようとしたおばちゃんが、佇んでいたのである。

 

 

ガラガラと揺れる中、
カウンターを飛び出しておばちゃんのそばへ駆け寄る。
おばちゃんは狼狽しきって立ちすくむばかりなんだけど、
その背後には、まあまあ巨大なガラス作りの商品棚があるわけで、
これが倒れてきたらおばちゃんはもうイチコロなわけで、
私は即座におばちゃんの肩を抱き、
姫、こちらへ。みたいな感じで
必死に平静をつくろいながら、そこから引きはがした。

 

したっけ、いつのまにか
おばちゃんその2がそのそばに出現していて、
食品の棚のそばでうろたえてるわけです。

 

おばちゃんは狼狽しきって何かを口走り続けるばかりなんだけど、
ねえ、おばちゃん、あぶねえがらそこ!
だめだでば、後ろに思いっきりドレッシングの瓶とか、びっしり並んでっから!

 

この、ドレッシングと書いて鈍器と読む軍団がなだれ込んで来たら
おばちゃんはもうイチコロなわけで、
おまけにフレンチとか中華とかイタリアンとか、
グローバルな感じに味つけされちゃうわけで、
それはさすがにまずい、ってなわけで
私はすぐさま、
おばちゃんその1の肩を抱いたもう片方の腕で、
おばちゃんその2を抱き寄せたわけです。



 

もう、両手に花。
「あたし怖いわ」と震えるおばちゃんを抱き寄せ、
「大丈夫ですよ」とささやきかける。
私が高倉健だったら、おばちゃんは確実にオチてる。

 

私…私、この状況、なんだろう、
いったいどこの石原裕次郎?(完全にイメージ)

 

f:id:hinatamoeko:20211101003257p:plain

 

ほんの数十秒のことだった。
その間、おばちゃんたちの命はあたしの両腕にかかってる!!くらいの覚悟で、おばちゃんズを守り続けた。

 

 

 

 

なんだろう。
普段、当店きってのポンコツスタッフとして暗躍しているくせに、
こういうときになぜか、漢気が発動する。
思えば私はいつだって、
守られる側ではなく、守る側に立っていた。

 

 

セトモノやらガラスやらの飛び散りパラダイスを片づけて帰宅すると、
大阪へ嫁いだ友人マオちゃんからLINEメッセージが届いていた。

 

「もえ、大丈夫か?!、」

「また強かったみたいだね、、」


この前より長かったって聞いたからとても心配、とマオちゃんは続けていた。
マオちゃんにとっても大地震は決して他人事なんかじゃなくて、
文面から明らかな動揺を感じたので、
安心させる意味も込めて、なかばふざけた調子で返した。

 

「職場にいたんだけどさ、
両腕に怯えるおばちゃんを抱えて守るというイケメンシチュエーション実演してしまったわ、、
それくらい長かった、、」

 

「やば!!イケメンすぎる!!w
もえがいたからおばちゃん二人も心強かったと思うよ(^O^)」

 

 

マオちゃん。

 

ありがとう。
マオちゃんのやさしさが、しみる。

 

 

私だって、たまには守られてみたい。
けれど守ってくれる人も、守るべきものもない今は、
ひたすら、凜として。