純喫茶みかづき

ほっとしたい昼。眠れない夜。常時、開店中です。

愛のショコラパイ

ただいま我らが雑貨店では、絶賛バレンタインデーフェア中である。 年がら年中何かしらの祭りに参加している気がするが、まあ、いいだろう。 そんなわけで、店頭にはチョコレートが所狭しと並んでいる。 フォーマルな箱入りチョコレートに、ポップなお配りチ…

ロミヲの青い空

「いつものじいちゃん、いるじゃないですか」 先輩がバックヤードで、笑みをこぼしながら話し始めた。 いつものじいちゃん。そう、あのじいちゃんである。 「私、このあいだ久々に見かけたんだけど。 なんかじいちゃん、ニット帽みたいなのかぶってて。 あー…

毛にまつわるエトセトラ

ナミヘイ・オンザ・ショートケーキを書きながら ふと思い出したことがある。 私は一時期、ビジネスホテルに勤めていたことがある。 事情により勤務期間はほんの半年と少し、といったところだったが あそこ以上にネタだらけの勤務先は他にない。 職種はフロン…

手づくりの未来

私には憂慮することがあった。 ameシリーズが、売れない。 待てど暮らせど、売れる気配を見せない。 それどころか、手に取られている様子すらない。 ameシリーズよ、おまえもか。 相撲柄の靴下しかり、わらびもちもしかり。 どうして私が本気で推すものはこ…

ヘッドライト・クライシス

私は走っていた。血相を変えて走っていた。 話は、およそ三年前にさかのぼる。 三年前のその朝は、吹雪だった。 私はヘッドライトを一段階、点灯させて出勤した。いちめん真っ白で、相当な視界不良であったためだ。 仕事を終え、帰宅しようと運転席に座って…

ナミヘイ・オンザ・ショートケーキ

我らが雑貨店では現在、絶賛いちごフェア開催中である。 いちごの旬はもっと先なのに、なぜ1月にいちごなのか。 『いち』と『1』をかけているのか、 アパレル同様季節を先取りしているのか、 とにかく1月はいちごフェアなのである。 学生時代、アルバイト…

しょうこちゃんの話

今日、渡り鳥の群れが夕空を行くのを見た。 遅番の休憩時間、 職員駐車場へと向かっていたときだった。 少し寒さの緩んだ、オレンジと青紫の混ざる空に 鳥たちの黒い影がくっきりと浮かび上がって見えた。 渡り鳥が群れをなして飛んでいくのを見ると、 きま…

風と共に去りぬ

前回はじけ飛んだワンピースのボタンについてお話ししたが、 ここに記した「それ以上の理由」についてご説明しようと思う。 その理由とは、私の自転車通学の仕方である。 中学以降ずっと自転車通学だったのだが、 どうやらそのライディングスタイルたるや 女…

優しい約束

「そりゃあそうだよ。 人は、自分が出した分を返してくれなかったら 必ずいつか去ってしまうものだ」 ――吉本ばなな 1989.『TUGUMI』 お気に入りの、紺色のワンピースがある。 二十歳の頃から着ているもので、 カシュクール風にもなるし、 エプロンワンピー…

ジャムおねいさん

私がこの世でいちばんうまく付き合えない帽子はベレー帽だと思う。 と、吉本ばなな著『キッチン』の冒頭風に切り出してはみたが、 特に理由はない。 シルクハット、カンカン帽、 テンガロンハット、ニット帽、 ボーラーハット、キャスケット・・・ あまたあ…

イツモシズカニハシッテイル

1月も下旬に近づく今日、 年末年始・3大癒されエピソードとして、 最後はこんなエピソードで締めくくりたい。 三が日、早番の朝。 降りしきる雪の中、私は職員駐車場へと車を走らせていた。 お正月にこの雪では、きっとお客様も少ないだろうな。 無人の歩…

天使のおさんぽ

前回に引き続き、年末年始の印象的なエピソードについてお話しする。 初売り中の出来事である。 我らが雑貨店の年末年始は、クリスマスほど忙しくはない。 家族連れが増えてにぎわうのだが、店を流れる時間はなんとなくゆるやかなのだ。 そんなわけで私は、…

四羽のスズメ

ついこの間まで年越しそばの心配をしていたと思ったら、 夢中になって日々を送るうちにもう1月も中旬。 感動が薄れないうちに、年末年始の出来事について語りたいと思う。 その日は、冷え込みも格別の一日だった。 私はジャケットに身をうずめ、 足早に職場…

おしゃべりなシーズン、season2

ここのところ雪の話ばかりしている気がするが、今の私の日常によく雪が降るのだから、しかたがない。 あきらめてどうかお付き合い願いたい。 以前おしゃべりなシーズンでもふれたように、 雪の情景というものは実に饒舌である。 そんなこともあってか、日向…

あなたとの秘め事

誰にも気づかれてはならない… 秘めていなければならない… この思いを… マヤ…! ――『ガラスの仮面』34巻 第12章 紅天女(1)より ガラスの仮面を、読了してしまった。 チャップリンの自伝を探し求めた先に、 ほとんど運命的に出会った、ガラスの仮面。 ガラ…

笑ってはいけない雑貨店24時

雑貨店に勤めていると、ときどき予想外の角度からオーダーを受けることがある。 「カウンターお願いしまーす」 カウンターから、店長がスタッフを呼ぶ声が聞こえる。 バックヤードにいた私は、あわててカーテンを開けて表へ飛び出した。 「日向さん、こちら…

不屈のライフドライバー

人間ゆうのは、記憶を燃料にして生きていくものなんやないのかな。 ――村上春樹 2004. アフターダーク 薄明りに目覚めた朝。 また外がウィンターアゲインになってる。 今年の冬はどうやら予想をはずさず、大雪の冬となりそうだ。 今年は例年にも増してTERUの…

ネバーエンディング・ストーリー

クリスマス、クリスマスさえ終われば。 クリスマスまで、耐えしのべば。 トンネルの向こうにはやっと、光が見えるはず。 そう、その、はずだった。 我が雑貨店は年に数度、ギフトラッピングによる繁忙期を迎える。 卒業・お別れシーズンの年度末がトップを守…

だから、いとおしかった

前回クリスマスプレゼントの思い出についてお話したが、 関連してもう一件。 ピー・エス、的なエピソードである。 願わくは、一般家庭におけるサンタクロースの正体をお悟りになったかたのみ、お読みいただきたい。 「おにいちゃんは、何歳のときに気づいた…

ジェフくんの思い出

クリスマス・イブ。 街全体がきらめき出し、浮かれ出し、 子どもたちに夢と希望を与える、聖なる夜。 「いい子にしていると クリスマスの夜にサンタさんがやってきて、 プレゼントを贈ってくれる」 このおとぎ話のようなイベントに 子どもたちは胸をときめか…

ジャッキーちゃんのカレンダー

そんなつもりじゃなかったの。 一度に、二人も手玉に取るなんて。 そんなこと。 年の瀬も間近のこの季節。 厳密に年の瀬とは、いったいいつ頃からを指すのだろうか。 そんな疑問はいったんさておき、時はまぎれもなく、師走である。 カレンダーが、ほしい。 …

おしゃべりなシーズン~番外編~

前回の風景とBGMの話に関連して、もう一件。 川幅が広めの川を見て、モルダウ。 雪景色を見て、ウィンターアゲインや、スノウドロップ。 情景と、それに関連する音楽が結びつくならまだわかる。 しかし私のラインナップの中には、 どれもたいがい「うっかり…

おしゃべりなシーズン

音楽には、風景がある。 よって風景にもまた、音楽がある。 私には物心ついたときから、 特定の風景に対してBGMが脳内再生される習慣がある。 きっと「私も私も」という方も、少なからずいらっしゃるのではないだろうか。 たとえば、川。 小川には反応しない…

冬物語のプロローグ

駐車場へたどり着いたら、車が何者かに襲撃されていた。 …と言うと聞こえは物騒だが、 まごうかたなき事実である。誇張も脚色も一切ない。 遅番帰り。 寒空の下ひとりたたずむ車のもとへ、小走りで近づいていく。 事件はその次の瞬間に、起こった。 余談なの…

恵みのひとしずく

「三浦春馬が出てるドラマの主人公、日向さんにそっくりなんですよ」 9月。 店のバックヤードに荷物を運び込みながら、店長が楽しげに言った。 居合わせたスタッフたちがざわつく。 「あれですか、松岡茉優が主人公の」 「そうそう。髪型もちょうどこんな感…

スパークリング・私

ギフト。ギフト。ギフト。 私の毎日の再頻出ワードは、疑うべくもなく「ギフト」である。 いまや、一日に訪れるお客様の大半がギフト依頼という状況。 年の瀬も目前といった気運が高まっている。 「ギフト」というワードで、思い出すことがある。 以前、姉妹…

四人の侍

師走。 いったい誰なんだろう、年の瀬にシワスという言葉をあてた天才は。 もう、スピード感とか、別格のボス感とか、ほんとよく出てる。 師が走るんですよ。そりゃもう誰もが走りますよ。 調べても結局語源はよくわからなかったけれど、 古来から「他の月と…

ロング・グッドバイ

ラン、ランララ、ランランラン♪ ラン、ランラララーン…♪ いまだかすかに鳴り響く、ヴィッツ・レクイエム。 さんざん苦しめたあのご老体を忘れられるはずもない。 しかし人間の別れと同様、 遺された者は、それでも生きていかなくてはならない。 車検切れは目…

しあわせなおくりもの

「日向ちゃんって、この辺の子じゃないでしょ」 昼下がりのパン屋、レジカウンター。洗い終えたトレーを拭きながら、マツモトさんが言った。 私は進学と共に上京し、パン屋でアルバイトを始めたばかりだった。 その日はパートのマツモトさんと二人で、昼のシ…

トオタル・コオデネイトなのら

通勤用かばんは長いこと、800円のキャンバストートバッグを使ってきた。 うちの店のセールで買って以来、雨の日も風の日も私の左肩で持ち物を守り続けた、黄色のキャンバストート。 これもまた、ギンガム姐さんやヴィッツの例にもれず、 長年の勤労がたたっ…